トム・ハーディ狂演!『カポネ』 認知症、失禁、迫る死の恐怖……“暗黒街の顔役”の壮絶すぎる晩年

『カポネ』©2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

世界一有名なギャング、アル・カポネ

世界で最も有名なギャングといえば、やはりアル・カポネだろう。禁酒法時代のシカゴを牛耳り、名作『暗黒街の顔役』(1932年)のモデルになり、それがアル・パチーノの『スカーフェイス』(1983年)につながった。筆者の世代は『アンタッチャブル』(1987年)でロバート・デ・ニーロが演じたカポネが忘れられない。

そして今、新たなカポネ映画が登場した。タイトルはズバリ『カポネ』。しかし本作は、シカゴでの“暗黒街の顔役”ぶりを描くものではない。

『カポネ』©2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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梅毒からの認知症、失禁、やがて妄執に囚われたカポネは……

『アンタッチャブル』でも描かれていたから、カポネが脱税で捕まったことを知っている人は多いかもしれない。だが、その後はどうだろう。カポネは長い服役生活を終えると、フロリダで隠居生活に入った。まだ40代だったが、すでに晩年だった。

若い時に梅毒を患い、その影響で認知症に。“現役”時代さながらに葉巻をふかしてみても、友達の顔が分からなくなってくる。咳き込んだ拍子に失禁。小も大も排泄がままならなくなり、医者はおむつを用意する。

『カポネ』©2020 FONZO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

これがあの「聖バレンタインデーの虐殺(※)」を指揮した(とされる)アル・カポネなのか。虚ろな目、しゃがれた声で呻き、過去に振るった暴力の記憶に苦しめられる。誰かが見張っている、自分を殺そうとしているという妄執。離れて暮らす隠し子の存在。映画はカポネの混濁する意識を“主観”として見せ、同時に自由にならない体を突き放して映し出す。

※1929年2月14日にシカゴで起こったギャング同士の凄惨な抗争事件。後にロジャー・コーマン監督が映画化。

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やがて起きる悲劇も救いも何もかも、もはやカポネは記憶していないのだろう。もはや金も底をついた。哀しく老いた大物ギャングスターを演じるのはトム・ハーディ。いつものカッコよさは微塵もない。特殊メイクで肉をつけ顔に傷を作り、破天荒な人生に逆襲される男の末路を演じ切る。

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ギャング時代の仲間に扮したマット・ディロン、ドクター役のカイル・マクラクランもいい。監督は傑作『クロニクル』(2012年)のジョシュ・トランク。調べて思い出したが、リブート版『ファンタスティック・フォー』(2015年)も撮っていた。あの作品が大失敗に終わったことを考えれば、本作はリベンジの一作。気合いが入るのも当然か。

本作にあるのは悪の魅力ではなく、悪の悲しさ。犯罪映画が好きな人間ほど、この映画は“こたえる”だろう。だからこそ画面から目が離せないのだが。

文:橋本宗洋

『カポネ』は2021年2月26日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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