セクシーな特急

京成上野駅に設置されたアイドル応援グッズさながらのポップな案内板(左)と東京都内を快走するケンティスカイライナー

 【汐留鉄道俱楽部】「京成スカイライナーがセクシーに大変身!」。こんな見出しの取材案内が京成電鉄から届いた。スカイライナーは成田空港と東京・上野を結ぶ同社の看板特急。ファッションデザイナーの故山本寛斎さんが「風」をコンセプトにデザインした車両は、いかにも速そうでかっこいい。そんなスタイリッシュな特急電車が「セクシー」に?

 セクシー化を果たしたのは、スカイライナーAE形電車のうち「AE5」という1編成(8両)だ。車両の内外に男性アイドルグループ「Sexy Zone」メンバーの「ケンティ」こと中島健人さんをテーマとした特別な飾り付けをして、「KENTY SKYLINER(ケンティスカイライナー)」と命名した。

 ケンティスカイライナーが実現したのは、ケンティが京成スカイライナーのイメージキャラクターを務めているからだ。それにしてもなぜ「セクシー」なのか。簡単に言うと、ケンティの決めぜりふに由来する。ケンティはコンサートや記者発表会、バラエティー番組で「セクシーサンキュー」とあいさつするのがお約束になっている。セクシーはケンティの代名詞のようなものといえる。

 7月に行われた出発式の際、クイズ形式のトークでスカイライナーの行き先を「あなたの心」と答えて会場を沸かせ、発車アナウンスの実演で「恋の駆け込み乗車は十分お気を付けください」と語って盛大な拍手を浴びたケンティ。ファンが「名言」と喜ぶキザな言葉をサラッと言える「王子キャラ」を生かして、スカイライナーのCMやポスターでは「京成王子」を演じている。

 車両の外観で目を引くのは、ケンティの写真のラッピングだ。まるでドアの横で乗客を迎えるかのように、京成王子の冠を頭に載せたケンティが敬礼したり、「こちらへどうぞ」と招くポーズをしたり。写真は何種類かあるので、全てを見たいファンは途中駅の日暮里や空港第2ビルではなく、始発駅の京成上野か成田空港(いわゆる空港第1ビル)から乗るようにして早めに駅へ行こう。発車前に停車中の車両をたっぷり観察できる。

 窓と屋根の間には「お客様は、お姫様。」というスローガン(車両によってはKENTY SKYLINERの文字)が。これを見て笑いと感動が込み上げた。ケンティは、駅員をプリンス、列車を白馬、乗客をプリンセスと見立てていた。もしやスローガンを発案したのはケンティ本人か。

 鉄道趣味的な目線では「ヘッドマーク」と呼ばれる先頭の飾りがかっこいい。京成王子の冠とKENTY SKYLINERの文字、さらに星を組み合わせた金色のロゴが、濃紺の車体に堂々と映える。強いて難を挙げれば、車体がピカピカすぎて写真を撮ると角度によっては光や周囲の景色が反射すること。まあ、王子だけにキラキラ輝くのは仕方ない。

 次に車内だ。デッキや座席の広告スペースにケンティの写真が掲げられ、背もたれにはヘッドマークと同じ金色ロゴの特製座席カバーが。そういえばロゴの星の数についてケンティは「僕はこれ、しっかり数えてますから」と誇らしげだった。ちゃんと意味があり、「今から何年前に初代スカイライナーが誕生したか」を表現している。ヒントは成田空港の開業と同時だ。

ドアの横に中島健人さんの写真を飾ったケンティスカイライナー

 走行中はケンティによる車内アナウンスを楽しめる。いかにもケンティらしいせりふで「お姫様」に語り掛けて「セクシーサンキュー」で締めくくる。ここで詳しく紹介するのはヤボというもの。とにかく事情を知らない乗客が聞いたら頭の中が「?」でいっぱいになりそうな甘い言葉に、お姫様はキュンとするはずだ。

 ここでケンティファンにささやかなアドバイスをしておきたい。ケンティスカイライナーの運行情報は最新のものを確認しよう。筆者は乗車体験記を書こうと思い立ち、前日に京成の公式サイトを確認した。ところが当日駅へ行ってみると、お目当ての便は普通のスカイライナーだった。

 「見間違えたか?」と思って最新の運行情報を見ると、その日のケンティスカイライナーは早朝の1回だけに変更されていた。せっかくの休日が残念なことになったが、筆者なら笑い話で済む。ファンの皆さんは悲しい思いをしないよう、当日朝に確認してから出掛けてほしい。

 もう一つ。せっかくなら青砥停車の便に乗ろう。ケンティの車内アナウンスは、京成上野発が日暮里発車後、青砥発車後、空港第2ビル到着前の3回、成田空港発は空港第2ビル発車後、青砥到着前、日暮里到着前の3回ある。青砥通過の便だと、青砥の分のアナウンスが流れず2回になる。楽しみは多い方が良いと思う。

 コロナ禍によって成田空港の利用客が激減し、京成電鉄は収益面で大打撃を受けている。スカイライナーは4割減便しているが、残る6割は乗客が少ないながらも踏ん張って運行中だ。そんな中、ケンティスカイライナーが目的で乗ってくれるファンには「セクシーサンキュー」だし、ファンは夢のケンティスカイライナーを用意してくれた京成電鉄に「セクシーサンキュー」と思うに違いない。

 ☆共同通信・寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部

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