高梁川志塾「新見市フィールドワーク」 〜 ぶどう畑の風景とアマゴを育てる自然を学ぶ

高梁川志塾は、高梁川流域におけるSDGsの達成を目指し、地域活動の中心的役割を担える人材を創出することを目的とした塾です。

2021年6月から2021年9月にかけて高梁川志塾 第2期が行なわれており、高梁川流域で活躍する講師たちによる約30講義が計画されています。

2021年8月1日(日)には、受講生たちが岡山県新見市まで足を運ぶフィールドワークが行なわれました。

ワイン用ぶどうの栽培とワイン製造に取り組む野波晶也(のなみ あきや)さんと、アマゴ養殖事業と飲食店経営を行なっている松田礼平(まつだ れいへい)さんが、現地で活動を紹介。

高梁川の源流 新見市の風景を、元新見市地域おこし協力隊の2人が手がける事業を通じて見てきました。

高梁川志塾の概要

画像提供:高梁川流域学校

高梁川志塾は、倉敷市委託事業として一般社団法人高梁川流域学校が運営する、高梁川流域における歴史・文化・産業・フィールドワークなどを通し、地域づくりや、持続可能な地域を担う人材育成、行動につなげることを目指す塾です。

受講コースは、以下の2種類。

  • 実習やプレゼンテーションを行なう「SDGs探究コース」
  • 座学として任意の講座を受講する「聴講生コース」

2020年11月から2021年2月にかけて高梁川志塾 第1期が開催され、2021年6月からは第2期が始まりました

開校式が2021年6月27日(日)に行われて、2021年9月26日(日)の修了式までに約30講義が予定されています。

講義の内容は、以下の5種類です。

第1期では、SDGsビジョン編、教養編、スキル編の3種類でしたが、第2期からローカルSDGsミッション編フィールドワークが新たに加わりました。

より詳しい内容を知りたいかたは、「⾼梁川志塾」の特設ページを確認してみましょう。

岡山ワインバレー

講師 野波晶也さんの経歴

岡山ワインバレーの代表 野波さんは、2014年に地域おこし協力隊として、岡山県新見市に移住しました。

ワイン用のぶどう栽培を目的に、耕作放棄地を開墾(かいこん)し、岡山県および新見一帯で培われてきた食用ぶどう栽培のノウハウを活かして、ワイン用のぶどうを育てています。

2018年には、新見市哲多町に醸造所 荒戸山ワイナリー(あらとやまワイナリー)を開設。

年間約3,000本のワインを生産する計画で事業を行なっています。

岡山ワインバレーのウェブサイトやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に、野波さんの活動について詳細にまとめられているので、気になる人は確認してみましょう。

ぶどう畑の景色

新見市の地盤の多くは、石灰岩によって構成されるカルスト台地

そのため、ミネラルが豊富水はけがよく、ぶどう作りに適しているといわれています。

ぶどう畑の近くには、石灰岩がむき出しになっている光景が見られました。

鋭い谷が多いことも特徴。

斜面は日当たりもよく風が通り抜けるため、ぶどう畑には理想的な環境なのです。

地表はテラロッサ(赤土)で覆われており、新見特有の地質となっています。

実際に、赤色の土で覆われた畑を見ることができました。

ぶどう畑で農業体験

新見市フィールドワークは、2021年8月初旬に行なわれました。

ぶどうの収穫には早いということで、草むしりを実施。

地味で大変な作業ですが、湿度を下げ、ぶどうの木を守っていくためには重要だと、野波さんは話していました。

ぶどうの木々が直線に10メートルから20メートルほど植えられ、さらに並行に約30列 並んでいました。

▼草むしりに取り掛かります。

▼機器で刈っていないぶどうの木の根元には、雑草が多く生えていました。

▼ぶどうの木の幹のようすです。

ぐるぐると渦巻いた印象を受ける模様となっていました。

ぶどうの木の幹を、じっくりと見るのは初めての経験。

▼枝のほうに視線を移すと、かわいらしいぶどうの実を見つけられました。

▼立派に育ったぶどうの実も見かけます。

8月初旬の昼下がりの作業で、少し体を動かすだけで汗が出てきました。

こまめに休みながらの草むしりでしたが、疲れた顔を見せる参加者も多かったようです。

約60アールのぶどう畑を一人で草むしりをすることもあると、野波さんは教えてくれました。

しんどい作業を身をもって経験すると、農業で生活を営む人たちの大変さが想像できます。

飲み物を飲むたびに、水分が体に吸い込まれていくような感覚を覚えましたが、大変さを味わうのもフィールドワークの醍醐味だと感じました。

荒戸山ワイナリー

草むしりのあとはワインの醸造所 荒戸山ワイナリーに移動し、施設を見学しました。

新見市哲多町の荒戸山の麓(ふもと)にある保育園を改装した醸造所。

可愛らしい外観で、説明がなければ醸造所だと気づくのは難しいでしょう。

建物の中には、立派な醸造設備が並んでいます。

ぶどう作りに適した土地が育んだ良質なぶどうの味を最大限活かすために、シンプルな醸造を心掛けているそうです。

醸造所の他にも、販売所とアートスペースを併設しています。

荒戸山ワイナリーに足を運ぶときは、事前登録が必要なのでウェブサイトで確認しましょう。

アマゴの養殖場

講師 松田礼平さんの経歴

松田さんは、2014年に地域おこし協力隊として、福岡県福岡市から岡山県新見市に移り住みました。

子どものころから、雇用されるのではなく独立して生きていこうと考えていた松田さんは、通信制の高校に通いながら飲食店で料理や経営を勉強。

そして、独立するための事業を探すために地域おこし協力隊の制度を活用しました。

自由に活動したいという考えから、第1期生であることを条件に、地域おこし協力隊の募集を調べ、岡山県新見市にたどり着いたそうです。

地域おこし協力隊として着任し、わずか1か月でアマゴの養殖に着手

現在は、岡山市表町3丁目にアマゴを使った料理を提供する飲食店café&bar naradewa(カフェアンドバル ナラデワ)も経営しており、新見市と岡山市の2拠点で生活しています。

また、これまでに森林の間伐事業を展開する一般社団法人や移住支援のNPO法人などを設立し、多くの法人の運営に関わってきました。

松田さんは、高梁川志塾 第1期でも座学の講師を務め、取り組みを紹介。

第2期では、フィールドワークとしてアマゴ養殖場移住者の交流の場として改装された旧油野小学校を案内してもらいました。

アマゴ養殖場の見学

松田さんが運営するアマゴ養殖場は、新見市の北西端にあります。

山を一つ超えると広島県か鳥取県という場所で、岡山県の北西端でもあるそうです。

標高は650メートルで神郷油野地区の最上流のため、アマゴ養殖場より上流側には民家や田畑はないとのこと。

生活排水や農薬などの影響を受けないため水はキレイですが、冬は積雪地帯でもあることから居住するには少し不便な環境。

ただ、不便だから暮らしにくいということではなく、結局、住み慣れればどこでも暮らしていけると教えてくれました。

新見市の中心市街地からでも車で約1時間を要する場所に位置しています。

▼アマゴ養殖場のようす。

松田さんは、15年ぐらい使われずに放置されていた設備を活用し、2014年にアマゴ養殖場を再稼働させました。

当時、アマゴ養殖に関する知識を持ってなかった松田さんは、インターネットや書物を通じて勉強したそうです。

現代は多くの情報があふれているため、知識を得ることの負荷は高くないと、話してくれました。

稚魚の仕入れ先など、人とのつながりに頼らざるを得ない情報については、地元の人たちが協力してくれたそうです。

▼アマゴのようす。

こちらの池には、稚魚として仕入れてから約1年半が経過したアマゴがいるそうです。

となりにある池では、稚魚が育てられています

アマゴは肉食のため、小さな個体が食べられてしまうことがあるそうです。

今回の見学で訪れたときには、成魚25,000匹、稚魚45,000匹を養殖していました。

旧油野小学校の見学

アマゴの養殖場を見学したあとは、新見市移住交流支援センターとして活用されている旧油野小学校を案内してもらいました。

建造されたのは1991年で、実際に小学校の校舎として使われていたのはおよそ10年。

松田さんが行政と協働で、廃校となった小学校の活用を続けています。

地域の人たちの交流の拠点にもなっているそうです。

室内は小学校とは感じられない雰囲気で、暖かみのある木工家具が並んでいました。

テーブルは木工職人で元新見市地域おこし協力隊の佐伯佳和(さいき よしかず)さんが手がけています。

フィールドワークの最後は、松田さんと受講生たちとの座談会

アマゴ養殖、飲食店経営、森林の間伐など、多くの事業に関わる松田さんの考え方に、たくさんの学びを得ることができました。

高梁川の源流 新見市を訪れて

ぶどう畑の栽培には、日当たりがよく水はけの良い場所が適している、というのは地理の授業でならった知識。

実際に畑に足を運んでみると、石灰岩がむき出しになっていたり、谷の斜面にぶどうの木が並んでいたりと知識通りの光景が広がっていました。

アマゴの養殖場は、集落の最上流にある生活するには不便な場所。

でも、人間の生活の影響を全く受けていない水が絶えず流れこんでいると聞くと、尊い場所のような気がしました。

どちらも、人の手では作ることのできない自然が生み出した環境

そのなかで、人が自然の力を借りることで、ぶどうもアマゴも育っているのだと感じました。

自然の恵みを感じつつも、8月初旬の草むしりからは、自然の過酷さと農業の厳しさも実感。

顔に汗をしたたらせながら、ぶどう畑の草むしりした経験は忘れられない思い出になるでしょう。

ぶどうの木々の間からのぞき見た入道雲は、2021年の夏もっとも記憶に残る景色になりそうです。

© 一般社団法人はれとこ