道の駅「みずなし本陣」存続危機 運営会社が撤退表明 南島原市、難題に直面

存続の危機に陥っている「みずなし本陣ふかえ」=南島原市深江町

 長崎県南島原市深江町の道の駅「みずなし本陣ふかえ」が経営難に陥り、存続が危ぶまれている。雲仙・普賢岳の噴火災害の展示施設などを備えた南島原観光の重要な施設。運営会社の第三セクターは7月下旬、事業譲渡を求める要望書を市に提出。ただ多大な維持管理費や改修費がネックとなり、市は難題に頭を抱える。

◆薄れる関心 

 県内の感染状況を示す県独自のステージが「4」に引き上げられた8月6日の昼下がり。広大な駐車場には休憩中の商用車やトラックが数台のみ。場内の行楽客もまばらだった。
 「みずなし本陣ふかえ」の来場者数はピーク時の6分の1に落ち込み、運営会社「みずなし本陣」(宅島壽雄社長)は昨年まで5年連続の赤字決算。開業22年目で迎えた経営危機に、川田喜傅治取締役は力なくこう語った。
 「噴火災害から30年。人々の記憶は風化し、関心は薄れた。2016年の熊本地震で来場者が急減。昨年3月以降のコロナ禍が追い打ちを掛けた」

◆譲渡の条件 

 宅島社長は5月の株主総会で「8月末撤退」の意向を表明。ただ「秋の修学旅行の予約も入っており、多方面に迷惑を掛けられない」(川田取締役)として、決算期の11月までの事業継続を決めた。だが、コロナ禍で景気回復は見通せず、累積赤字は膨らむ一方。同社は7月29日、出資者である市に対し、事業譲渡を求める要望書を提出。「存続」の判断を委ねた。
 本紙が独自に入手した資料が手元にある。そこには同社が「11月中の事業閉鎖及び法人の清算を検討」すると記載。その上で、市への事業譲渡の条件として、みずなし本陣の資産について適正な価格(固定資産税の評価額などに沿った価格)での購入を求めている。
 これについて市議の一人は「(15年3月の定例市議会で)『これで最後』との付帯決議を付けて追加出資した経緯がある。市民感情が許さない」と憤る。

◆時代の流れ 

 一方、げたを預けられた形の市は、綱渡りの財政運営を強いられている。
 市財政課によると、景気低迷に伴い21年度の市税収入は、前年度より4億1500万円も目減りすると見込む。税収が想定以下だった場合に認められる「減収補填債」の発行額は昨年度5920万円に上った。今後もコロナ対策費の膨張や税収減、それに伴う借金増が予想される。
 「現状で代わりの企業を探すのは困難だが、(事業譲渡を)簡単に『はい、分かりました』とは言えない。運営会社の経営状況や課題を精査するとともに(事業継続か否かの)シミュレーションをし、市議会と早急に協議したい」。市幹部は厳しい表情で話す。
 8月30日にあった市議会全員協議会の議論は紛糾した。市側は「運営継続」の方向性を示したが、重鎮の市議は「民間が大赤字を出した施設を行政が黒字化できるのか。施設改修費など隠れた負債も多い。(コロナ禍で)来場者の回復の見込みもない。市執行部は軽く考えていないか」と一蹴。仕切り直しとなった。
 隣接する土石流被災家屋保存公園を管理する県地域づくり推進課は「防災の重要性を後世に伝える施設。島原半島観光においても、団体客などの昼食会場として利用されているだけに(存続の危機となると)影響は大きい」としながらも、市と同社の協議の行方を見守る構えだ。
 近くの50代の主婦は「開業当初は物珍しさも手伝ってにぎわっていたが。特に見たい物や買いたい物もないし、最近は足を運んでいない。噴火災害の継承を考えると存続してほしいが、もし閉鎖となれば、時代の流れかも」とため息交じりに話した。


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