攻め込まれても、精神的にタフな福岡 同じ昇格組の徳島に快勝、9位浮上

昨年12月、J1昇格を決め喜ぶ福岡イレブンら=ニンスタ

 下部ディビジョンからの昇格組の現実的な目標。それは残留だろう。Jリーグは不思議なもので、これまで2011年の柏レイソル、14年のガンバ大阪がJ2から昇格したシーズンにいきなりJ1を制した歴史がある。欧州などではこのようなことはほとんど見られない。

 新型コロナウイルスの影響により、昨季は特例で降格がなかったので、今季のJ1は20チームで行われている。それに伴いシーズン終了後のJ2への降格が4チームに増えたわけだが、昇格組の徳島ヴォルティスとアビスパ福岡は難しい戦いを強いられることが予想された。

 たとえJ2でどんなに素晴らしい戦いを見せて昇格してきたチームでも、J1では同じ戦い方をして好結果を得るのはかなり難しい。個々の戦力を見れば、J1に定着しているチームよりも明らかに劣っているからだ。そのようなチームが、当面の目標である残留をかなえるために必要なのは、地味でもいいから勝ち点を1ポイントずつ積み上げていくことだ。残留にはメンタルも含めて、劣勢の状況に耐えられるチームであるかどうかが大事になってくる。

 J1第26節で、無敗だった王者川崎フロンターレに今季初めて土をつけた福岡。今季の大きな驚きの一つだろう。その福岡が8月29日の第27節で同じ昇格組の徳島と直接対決。試合前は福岡の10位に対し、徳島は自動降格圏の17位。それでもボールポゼッションで上回ったのは徳島だった。

 ただ、福岡の守備は堅い。しかもシーズンを通じて相手に主導権を握られることも多いので、守るということにかけて精神的にタフだ。徳島のパス回しを自分たちの守備網の外側に追いやり、決定的なチャンスをつくらせない。

 一方、直近の試合に3連敗している徳島は、3試合いずれも6割以上のボール保持率をみせている。ただ、ゴールが遠い。3試合連続無得点とボールを保持するだけでゴールは奪えないという皮肉な状況に陥っていた。

 前半は大きな動きはなかった。その中で根気強く守っていれば、必ずチャンスは訪れるという流れを的確につかんだのは福岡だった。後半8分、相手のクリアボールを山岸祐也がヘディングでつなぐ。その落としたボールに素早く反応したのが金森健志。

 「あの形は自分の得意な形。打った瞬間に入ったと分かった」。バウンドするボールに合わせての反転からの右足ハーフボレー。ゴール左隅へのシュートはGKがほとんど反応できない完璧なものだった。

 「相手にシュートを打たせていないという点で完璧な前半だったという印象」。

 金森の言葉にも「まず守備から」というチーム哲学がうかがえた。

 後半31分、左サイドの西谷和希の逆サイドへのクロスをフリーになった岸本武流が右足でダイレクトに合わせる。この徳島の決定機でボールがGK村上昌謙の正面を突いたことで、再びボール保持率だけでは表せないゲームの流れは福岡に戻った。そして勝利を盤石なものとしたのは、交代出場したジョン・マリだった。

 カメルーン代表のストライカーで、ファンマに代わって後半35分に投入されたマリは後半42分、51分と連続ゴールを挙げて期待に応えた。しかも、2ゴールとも、とても美しいシュートだった。

 1点目はJリーグでも活躍したカメルーン代表のレジェンド、エムボマのプレーを思わせるものだった。左サイドの重広卓也から送られたヘディングのボール。それを浮き球でコントロール、自らの頭上を通し、反転する。間髪を入れずに、マークする徳島DFカカを吹き飛ばすと、右足を振り抜き、強烈なシュートをたたき込んだ。

 アディショナルタイムに入ってから2点目も見事なターンからだった。ここでも重広からのパスを受けると、左足でコントロール。流れるように反転すると、右足でGKの股を抜くシュートを放った。

 終わってみれば福岡は3―0の快勝だった。J2降格圏の17位に沈む徳島を尻目に9位に浮上。しかも勝ち点を39に伸ばした。これで福岡はJ1でのシーズン最多勝ち点のクラブ記録を更新。J1定着への大きな一歩を踏み出したといえるかもしれない。

 強いかと問われれば、まだそこまでではない。ただ、いまの福岡はしぶとく戦って勝ち点を拾っている。その意味で確実に成長しているといえる。勝ち点を重ねるごとに自信も得られる状態なのではないだろうか。

 試合後、長谷部茂利監督も間違いなく手応えを感じていたのではないか。ただ、シーズンはまだ続く。残り約3分の1をどう戦うのか。注目したい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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