スマートウォッチの疑似心拍刺激で緊張緩和効果を確認、個人差の要因も判明

スマートウォッチによる心拍を模した振動刺激が緊張を緩和させる効果をもつことを、慶應義塾大学の研究グループが明らかにした。また、この効果の程度は身体内部状態の知覚能力(内受容感覚)の個人差に左右されることもわかった。

これまでに、疑似心拍が人間の感情や気分に影響を与えることは知られてきたものの、その効果の有無は研究により異なってきた。一方、「内受容感覚」はストレスの感じ方やその対処の仕方に影響を及ぼす、感情認識の基盤になるシステムと考えられている。

そこで本研究では、疑似心拍の与える効果と内受容感覚の個人差との関係性を実験により検討した。

実験では、人前でスピーチを行い緊張を感じるストレス下で、スマートウォッチを通して自身の心拍よりも2割遅い疑似心拍刺激を与えたときの参加者の身体反応を計測した。また、参加者の内受容感覚は、自身の心拍速度がどの程度であるかを同定してもらう検査(心拍計測課題)により評価した。

その結果、内受容感覚が正確だった人ほど、疑似心拍刺激を受けることで副交感神経が強まり、緊張で速まった心拍速度が抑えられる傾向がみられた。一方、疑似心拍刺激を与えなかった場合は、逆に内受容感覚が正確であるほど副交感神経は弱まり、緊張により心拍が速くなる傾向がみられた。

すなわち、内受容感覚が正確で身体反応に敏感な人ほどストレス反応が大きいが、疑似心拍刺激による緊張緩和効果も大きいことが明らかになった。内受容感覚の個人差に応じて、外部からの刺激に喚起される身体反応の感じ方が異なり、結果としてストレスの感じ方や感情に与える影響も左右されると考えられる。

また、本成果は、個人の内受容感覚に応じてカスタマイズすることで効果的な感情制御が可能となる「スマート触覚デバイス」の開発につながる可能性も示している。

論文情報:

【Biological Psychology】The effect of haptic stimulation simulating heartbeats on the regulation of physiological responses and prosocial behavior under stress: The influence of interoceptive accuracy

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