理研、pH中性環境下で鉄の酸化も還元も行える1体2役の新種微生物を発見

© 株式会社マイナビ

理化学研究所(理研)は9月2日、地球表層環境の大部分を占める中性pH条件下において、単独で鉄を酸化することも、酸化鉄を還元することもできる新種の微生物を発見したと発表した。

同成果は、理研 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室の加藤真悟開発研究員、同・大熊盛也室長らの研究チームによるもの。詳細は、微生物学全般を扱う学術誌「Microbiology Spectrum」に掲載された。

鉄は人類の文明の発展に長く活用されてきたのみならず、体内でも生命の維持のために必須の存在として知られている。地球表層環境における鉄は、主に二価「Fe(II)」と三価「Fe(III)」の状態で存在し、酸化還元反応を繰り返しながら環境中を巡っていることが分かっている。 この地球表層環境の鉄の酸化還元サイクルは、主に微生物によって駆動されている。これまでに、多様な鉄酸化微生物および鉄還元微生物の存在が確認されているが、単独で鉄を酸化することも、酸化鉄を還元することもできる微生物は、pH値の低い酸性条件で生育する好酸性の種に限られていたという。

地球表層環境の大部分を占める中性pH条件下で、鉄を酸化することも酸化鉄を還元することもできる微生物が生息していても不思議ではないとされてきた。しかし、その存在はこれまで実証されていなかったのだという。

そこで今回の研究において研究チームはまず、どのような鉄酸化微生物が自然環境中に生息しているのかを調べるため、茨城県つくば市の湿地帯で見つけた「鉄マット」と呼ばれる酸化鉄沈殿物(18℃、pH 6.5)を採取し、培養実験を実施。その結果、いくつかの試験管において、微生物の増殖が確認されたという。

それらの培養物に対するDNA解析が実施されたところ、既知の鉄酸化微生物に加えて、これまで鉄を酸化するとは予想されていなかった系統の微生物が増殖していることも確認されたとのことで、研究チームは、この予想外の鉄酸化微生物を「MIZ03株」と呼び、生理性状やゲノムなどをさらに詳しく調べることにしたという。

全ゲノム配列を解読し、系統解析が行われたところ、MIZ03株は「Rhodoferax属」に属する新種レベルで新しい微生物であることが判明したほか、(微)好気条件下において、鉄のほかにも、水素やチオ硫酸を酸化してエネルギーを獲得し、炭素固定をして独立栄養的に増殖できることも明らかになったとする。

また、Rhodoferax属には「R. ferrireducens」という鉄還元微生物が含まれることが知られていたことから、MIZ03株の鉄還元能の調査も実施したところ、嫌気条件下において、溶存Fe(III)に加え、不溶性Fe(III)鉱物「フェリハイドライド」も還元できることが判明したとする。

さらに、MIZ03株がどのような機構で鉄を酸化・還元しているのかを遺伝子レベルで調べられた結果、鉄酸化に関わると推定される「foxEY遺伝子」と、鉄還元に関わると推定される「mtrABC遺伝子」が見出されたという。

Rhodoferax属の既知の培養種の中では、これら2つの遺伝子のうち片方を持つ種は確認されたものの、両方を持つ種は確認されなかったが、培養に依存しない「メタゲノム解析」によって解読された未培養種のゲノム中では、両方の遺伝子を持つものがいくつか発見されたとのことで、この結果は、MIZ03株のほかに、まだ培養されてない鉄酸化還元微生物が存在することを示唆するものであると研究チームでは説明している。

今回の研究を踏まえ研究チームはMIZ03株に対して「Rhodoferax lithotrophicus」という名前を暫定的に提唱。MIZ03株は、微生物リソースとして同開発室(JCM)に保存されており(JCM No. 34246)、各研究機関で利用できるように整備されているという。

研究チームによると、この類の微生物は、鉄を電子供与体としても電子受容体としても利用できるため、それが生態学的なアドバンテージになっていると推察されるという。今後さらに調査を行うことで、より多様な鉄酸化還元微生物の存在が明らかになると考えられるとしているほか、鉄酸化微生物および鉄還元微生物は、さまざまな応用分野においてその利用価値が注目されており、実用化に向けた研究も進められていることから、培養が容易なMIZO3株は、難分解性有害汚染物質の分解、有害重金属の除去、レアメタルの回収、微生物燃料電池、バイオリーチングなどといった応用研究における微生物のモデルとして展開することも期待できるとしている。