連載⑥ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX教育(デジタルトランスフォーメーション教育)の時代へ(後編)」

BYODの授業の様子(2014年撮影)

前回:連載⑤ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX教育(デジタルトランスフォーメーション教育)の時代へ(前編)」

いよいよこれから「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)」がスタートする。GIGAスクール構想が目指す学びのデジタルトランスフォーメーション(DX)は「1人1台の端末を使い、高速大容量ネットワークによる学びの可能性を広げる」というコンセプトである。

具体的には、全国の教育委員会・学校に対する支援活動を展開するため、「すぐにでも」「どの教科でも」「誰でも」活かせる「1人1台端末」活用方法に関する優良事例や、本格始動に向けた対応事例などの情報発信・共有を随時行っていくことが文部科学省のホームページに書いてある。(公開されているイメージはこちらhttps://www.mext.go.jp/content/20201223-mxt_jogai01-000011687_002.pdf

日本では2021年の7月の段階で、小中学生へのモバイル端末の普及率は97%という数字もある。いよいよ本格的なICT教育のスタート。コロナ禍になってようやくという声もあるが、私としてはオーストラリアのクィーンズランド州の視察調査訪問のことを思い出した。

「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)」 文部科学省のwebサイト(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/digital_tf/dai4/siryou2-3.pdf)より

「StuDX Style(スタディーエックス スタイル)」 文部科学省のwebサイト(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/jikkoukaigi_wg/digital_tf/dai4/siryou2-3.pdf)より

クィーンズランド州は海岸部の人口集中地帯であり、新潟と似ている箇所がある。広大なルーラルエリア(田舎)の砂漠や干ばつは新潟には無いが、豊富なエネルギー資源、農業、観光の産業がある。しかし、クィーンズランド州はそれに依存しすぎてしまうことを懸念していて、将来を見据えたデジタル経済・産業へシフトする必要性があると考え、デジタル人材の育成、新たな産業・起業環境の整備を課題としている。

クィーンズランド州の公立学校はICTを使った教育が、全ての教科ですでに10年ほど前から行われている。モバイル技術の発展により、オンラインにすぐにアクセスすることができるスマートフォンやタブレットへ人々がシフトすることを前提に、学校へオンラインサービスの配信もされている 。教育アプリケーションも様々だ。

クィーンズランド州の施策である「サイバーシティプログラム」として、オープンデータの提供や、ハッカソンでのアプリ作成などのオンラインサービスを提供し、若年層のプログラムスキル向上などに取り組んでいる。初等中等教育におけるICT教育の現状、特にデジタルポートフォリオやICT支援員の配置、公務情報化などに焦点をあて私は数年渡り訪問調査をした。

「オーストラリアの歴史に及ぼす中国移民の影響について」調べ学習。隣の教室の調べ学習を電子黒板に投影。ネガティブとポジティブにわかれ、2つの作業をする。同じ内容の調べ学習でもパソコンを使うだけではない(2014年撮影)

産学官連携によるデジタルキャリア育成プログラムの中では、デジタルキャリア育成もやっている。これらの目的は、

・ICTに関心を持たせる
・大学、専門学校でICTコースを勧める
・ICTの教育を受けたあとのキャリア明確化
・ICT産業・キャリアの評価を向上させる
・ICT教育の教材と専門家を提供する
・ICT教育者の能力と信頼を向上させる

などである。

また産官学連携のGROUP-Xなどのプログラムとして

・コミュニティ重視による産業育成、ノウハウの集積
・キャリアパスのイメージング、専門教育の早期スタート
・地域コミニティ・マイノリティへのケア
・企業側の採用、マーケティングメリットも大きい
・オープンデータ&ガバメント、すべての産業のICT連携
・デジタルに対応した教育評価モデルを実践している
・政府のICT教育サポート環境整備
・ICTスキルの専門教育だけでなくロジカル思考、法務・財務社会教育の側面
・人材・起業、就業・コミュニティののビジョンが明確

などがある。新潟でも産官学の連携が学生を中心としたスタンスで行われる点は参考になるだろう。

幼稚園年長さん5歳〜のクラス(2014年撮影)

さて、日本の「StuDX Style」は個人懇談のオンライン化や学習環境作りも含まれ、家庭と学校の繋がりやすさ、学習者においては自身の学びの振り返り、さらに得意な点を把握できるメリットがある。先生にとっても1人1人の児童生徒の学びの様子を遡って学習指導が可能だ。こういった取り組みはオーストラリアのクィーンズランド州では20年位前からすでに始まっている学校もあった。

もちろん1軒1軒が離れている地もあり、そもそも遠隔学習が根付いている州ではあるが、日本よりも何年も前から始まっているDX教育によってコロナ禍で教育がストップすることは無かった。学びを止めないためにも「StuDX Style」がクィーンズランド州のように学習者中心で行われることが大事だと感じる。

(「学びを止めない教育」については拙著『小学校にオンライン教育がやってきた(三省堂)』に詳細が書かれている。)

【連載 上松恵理子の新潟・ICT・教育】

前回:連載⑤ 上松恵理子の新潟・ICT・教育「DX教育(デジタルトランスフォーメーション教育)の時代へ(前編)」

初回:連載① 上松恵理子の新潟・ICT・教育「新潟がメインとしていた第一次産業にもデジタル化の流れ」

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上松恵理子 略歴
博士(教育学)
武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部准教授
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員
早稲田大学情報教育研究所研究員
明治大学サービス創新研究所客員研究員
東洋大学非常勤講師
教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー
総務省プログラミング教育推進事業会議委員(H28.29)
文部科学省委託事業欧州調査主査(H29)

大学では情報リテラシー、モバイルコミュニケーション、コンピュータリテラシーの授業を担当。研究では最新のテクノロジーを使った最先端の教育についても国内外の調査研究。国内外での招待講演多数。著書に『小学校にプログラミングがやってきた!超入門編』、『小学校にオンライン教育がやってきた!』(三省堂)など。

新潟大学大学院情報文化研究科修了、新潟大学大学院後期博士課程修了

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