美観地区にある阿智神社(あちじんじゃ)の東参道を目の前にしたとき、右側にも道があるのを知っていますか?
東参道の鳥居から約20メートル車道を上ったところに古民家があります。
ここは「ものづくり作家が集まる~コワーキングスペース斎館(さいかん)」(以下、斎館)です。
斎館は、令和2年(2020年)に古民家を改修し、コワーキングスペースとなった施設。
特徴的なのは、テレワークとしてはもちろん、作家がものづくりをする拠点としても運営していること。
切子ちょうちんづくりのワークショップなども開催しています。
コンセプトのユニークさに惹かれた筆者が、どのような施設なのかを取材。
なぜ「ものづくり作家が集まる」というコンセプトにしたのかなど、話を聞きました。
コワーキングスペース斎館とは?昭和初期に移築された「楠戸家別邸」を改修して誕生
斎館は、古民家を改修してできたコワーキングスペースです。
ものづくり作家が集まる場として、ワークショップやイベントなどを開催している日もあります。
古民家の雰囲気はもちろん、阿智神社境内にあるからか、一見コワーキングスペースとわからないほどです。
建物は「楠戸家別邸(くすどけべってい)」。
築年数は諸説あるものの、昭和初期に現在の場所へ移築したといわれています。
昭和30年代(1955年代)~50年代(1975年代)後半までは阿智神社での挙式後、披露宴会場として使われていたそう。
ところが、平成27年(2015年)頃より空き家状態になったことで、シロアリや湿気による被害が目立っていました。
令和2年(2020年)6月に、「倉敷まちづくり基金」を活用して改修。
同年9月に、「ものづくり作家が集まる~コワーキングスペース斎館」として生まれ変わったのです。
会社員やフリーランス、ものづくり作家などが使えるコワーキングスペース
斎館は、さまざまな使い方ができます。
- テレワークをするときの仕事場
- 会議など、複数人での打ち合わせ場所
- 勉強するための場所
- セミナー会場
- ものづくり作家が創作活動をする場所
よくあるコワーキングスペースのようにテレワークでの利用もできますが、いちばんの特徴は「ものづくり作家が集まる」こと。
地元・倉敷をはじめ、岡山県内でものづくりをする作家たちが、創作活動の場として利用することが多いようです。
切子ちょうちんづくり体験や、幻想的なあかりを用いたイベントも開催
作家が創作する場だけではなく、タイミングによっては製作体験ができたり、作品を用いたイベントをおこなっていたりします。
とくに「切子ちょうちんづくり」は、オープン当時から開催しているワークショップです。
令和3年(2021年)現在、修学旅行のひとつのプログラムとして訪れる学校も多いそう。
新型コロナウイルス感染症の影響で、岡山県外への修学旅行がむずかしくなった今、「いつもとは違う体験を子どもたちにさせたい」との思いを受けて、ワークショップを開催しているとのことでした。
修学旅行のように団体で体験をしたい場合は、予約が必須です。
もちろん個人でもワークショップへの参加はできます。
個人の場合は予約必須ではないものの、開催していない場合もあるので注意が必要です。
開催しているかは、電話で先に聞くか、斎館の入口に看板が出ているかでわかります。
製作体験をメインに斎館へ行きたい場合は、あらかじめ電話で確認しておくといいでしょう。
さらに、時期によっては「幻想あかり 斎館」というイベントを開催。
2階から見える庭園で、木々のライトアップや希莉光(きりこ)あかりの優しい光で、幻想的な空間を演出しています。
普段の斎館以上に非日常を味わえるので、今後のイベント情報をぜひチェックしてみてください。
コワーキングスペース斎館 各部屋の紹介
斎館は、2階建ての木造建築です。
どのようなスペースで作業できるのか、紹介していきます。
▼1階 談話室(コワーキングスペース&ワークショップ会場)。
玄関から見てもっとも手前にある談話室は、作家が創作活動をしていることが多いです。
もちろん空いていたら、テレワークの場としても使えます。
▼1階 cafeキッチン
こちらはキッチンスペース。
利用料金にはフリードリンク代が含まれていて、コーヒー・カフェラテ・紅茶いずれかを飲むことができます。
プラス料金で、アフォガードやフレンチトーストも用意できるそう。
あらかじめ電話で伝えておくと、プラス料金でのメニューも確実に楽しめます。
▼1階 和室(商談室)。
この部屋は特別室として商談等で利用しています。
コワーキングスペースとしては開放していないので、斎館を利用する場合は基本的に2階を使うことになります。
▼階段を上がって2階へ。
▼2階 和室(コワーキングスペース&cafeスペース)。
南側には、形が特徴的な窓があります。
手前の窓は、丸太一本分をくりぬいて作られたもの。
障子をあけると、網戸がないからかダイナミックに竹林の景色が目に飛びこんできます。
そして、北側には広い庭が。
毎年11月頃には、紅葉が見頃になります。
季節の移り変わりも感じられる、風情あるコワーキングスペースです。
コワーキングスペース斎館 利用料金
テレワークや創作場所として個人で斎館を利用する場合、予約は必要ありません。
月に数回利用したいときは、会員の登録をしたほうがお得です。
会員になったら、一般であれば「竹・松・極上松茸」、学生であれば「たけのこ・若獅子」の料金で利用できるようになります。
営業時間は、午前9時から午後5時まで。
臨時休業することはあるものの、基本的には不定休です。
貸切利用やワークショップで利用している場合は、テレワークでの利用ができなくなります。
事前に確認してから足を運ぶといいでしょう。
休業などのスケジュールは、斎館のホームページかFacebookで更新されています。
▼貸切利用の料金は以下のとおりです。(貸切利用のみ、1週間前までに要予約)
ものづくり作家の活動拠点としても利用できる、コワーキングスペース斎館。
斎館を運営する倉敷光作所(くらしきこうさくしょ)・特殊光作員の須山恭安(すやま たかやす)さん・寛子(ひろこ)さん夫婦に話を聞きました。
須山さん夫婦へインタビュー
斎館を運営する倉敷光作所・特殊光作員の須山恭安さん・寛子さん夫婦に、改修した経緯や運営への思いをインタビューしました。
建物を壊してほしくなくて、改修・活用を直談判した
──斎館をオープンした経緯について教えてください。
須山恭安(敬称略)──
この建物を私たちが改修する前は、阿智神社が管理・運営していました。
神職のかたも住んでいたのですが、空き家になるということでイベント会場として利用させてもらっていたんです。
当時から「立派な建築物だなあ」と思い、たびたび使わせていただいていました。
ただ、建物が古くなり、シロアリの被害もひどかったので、取り壊しの話も出ていたようですが、「こんな立派な建物、壊してしまうなんてもったいない!」と思ったんです。
「直せないかいろいろと調べてみるから、修復を任せてくれないか」と直接お願いしました。
須山寛子(敬称略)──
改修の方法を調べ始めましたが、想像以上に建物の老朽化が進んでいたんです。
よくわからないところから水が漏れていたり、シロアリの被害も想像以上に大きかったり……。
結局、1階の半分以上の壁や床ははがさないといけないとわかったんだよね?
須山恭安──
そうそう、「自力で改修するのは無理だ」と。
業者に頼みたいけど資金的にむずかしかったのもあって、倉敷市の「倉敷まちづくり基金」に申請することにしました。
須山寛子──
申請するときに「何を目的に改修するか」を書く必要があったので、以前からやりたかったコワーキングスペースにしよう!とすぐに決まりました。
さらに私が希莉光あかりを作っていたので、作家が集まって創作できる場があればいいなと思いまして。
だからコンセプトが「ものづくり作家が集まる」なんです。
斎館にいると、アイデアがたくさん思い浮かぶ
──寛子さんの活動拠点にもなるから、夫婦で運営することになったんですね。
須山寛子──
そうなんですよ。
ここ、すごく静かでしょ?ちょっと外を歩けば美観地区や阿智神社といった、人が多い場所がたくさんあるのに。
斎館だけ非日常な空間なんです。
非日常の空間から窓の見える外の景色を眺めていると、希莉光デザインのアイデアがたくさん思い浮かぶんですよ。
だからものづくりをする人たちに使ってほしいなと思って、コンセプトにしました。
須山恭安──
本当にすごいんですよ!どんどん作品が進化していて。
ぜひいろいろな人に、斎館での非日常を味わってほしいですね。
改修は、ほとんど自分たちの手で
──ふたりにとって特別な場所なんですね。老朽化の話をうかがう限り、修復はかなり大変そうだと思ったのですが……。
須山恭安──
それが、かなり楽しくて!
業者の人でないとできないところはもちろんありましたが、それ以外はふたりでほとんど壊したんです。
「やるぞー!」って言いながら、思いきり壁を壊していきました(笑)
改修をしていた2020年6月から9月は、新型コロナウイルス感染症の影響で好きな旅行にもなかなか行けず……。
いいストレス発散になりました。
須山寛子──
玄関やキッチン全体の床や壁は、ほとんど修復しています。
全体的に外の景色が見えて明るくなるように、廊下側の壁はすべて取りました。
須山恭安──
窓がついている壁とは反対側の壁も、こだわりました。
この石垣は本物で、もともとあるものなんですよ。
石垣を生かしたデザインにしようと、壁や床を修復しました。
見た目はシンプルだけど、思い入れがありますね。
もともと1階と2階のつくりが違うのですが、1階のみ改修したことでさらに違いがわかるようになりました。
ぜひ実際に来て、確かめてみてください。
建物に詳しい人にも、楽しんでいただけるつくりだと思います。
ワークショップ 子どもたちが夢中に!
──普段はどのような人が利用していますか?
須山恭安──
テレワークで使う人もいますが、メインはものづくりをしたり、ワークショップをしたりと利用いただいています。
とくに今は修学旅行の予約が多くて、学校単位で受け入れているんです。
2階の和室は20人くらい入れるので、人数が多い場合は時間をわけて来ていただいています。
修学旅行は岡山県以外に行ってはいけないと決まりましたからね……。(2021年8月現在)
県内にいても、少しでも特別な体験や、非日常を味わう機会になればうれしいなと思っています。
──子どもたちの反応はいかがですか?
須山恭安──
みんな夢中ですよ。
作るときも楽しそうですが、あかりをつけたときはとくにテンションが上がっています。
よほど楽しかったのか、後日、お母さんを連れてワークショップに来たり、岡山市内から卒業旅行で仲良しの友達と再び来たりしたお子さんもいらっしゃいました。
あれはうれしかったですね。
須山寛子──
実は倉敷物語館をはじめ、斎館以外の場所でもワークショップをおこなっています。
なかなか出かけられない時期が続きますが、少しでも楽しんでもらえる機会が増えたらいいですね。
最新作は3人の合作。構想期間は1年!
──ちなみに、最新の作品はどれですか?
須山恭安──
2階にある、ホタルがデザインされている希莉光あかりです。
これ、構想1年・製作期間6ヶ月なんですよ。すごいでしょ?
須山寛子──
倉敷光作所のメンバー3人の合作なのですが、ホタルのおしりが本物みたいに光るよう設計されているんです。
デザインの美しさはもちろん、光るタイミングをプログラミングするなど、すべてイチから手作りしています。
時間がかかった分、納得できる自信作になりました。
やってみたいことは、次から次へと
──今後やってみたいことはありますか?
須山恭安──
直近でいうと、2021年秋に「幻想あかり 斎館」を開催しようと思っています。
前回は夏に開催しましたが、夜が長い秋や冬のほうがこのイベントは楽しめるんですよ。
2021年秋に開催予定の「幻想あかり 斎館」は、新型コロナウイルス感染症の状況により、中止の可能性があります。
秋に向けて希莉光あかりの新作を作っているので、楽しみにしていただきたいです。
須山寛子──
やりたいことは次から次へ思いつくんですけど……、作品自体をさらに進化させたいと思っています。
斎館の空間の力を借りて、浮かんだアイデアはどんどん形にしたいと思います。
おわりに
斎館は、古民家ならではの木のぬくもりが感じられるコワーキングスペース。
ぬくもりを感じられるのは、木造だからという理由だけではありません。
空間のあちらこちらに飾られている希莉光あかりや切子ちょうちんのあたたかさが、より非日常を演出しているんだと思います。
古民家・希莉光あかり・周辺の自然・静かな空間など、斎館には他では味わえない場の力を感じました。
作家でない人たちにとっても、新たなアイデアが思いつきやすい場所なのかもしれません。
また互いを尊敬し合っている、須山さん夫婦の関係性も素敵です。
たまには場所を変えて、非日常空間で仕事をしてみませんか?