コロナ禍と高齢者 介護予防の”先進自治体” 佐々町、外出支援策に奮闘

長谷川さんと佐々木さんに寄り添われながら買い物を楽しむ竹久さん(中央)=北松佐々町

 新型コロナウイルスの影響で、外出自粛を迫られた高齢者。外出できない状況が続くと認知機能や身体機能の低下につながるおそれがあると指摘されている。こうした事態を防ごうと、介護予防の「先進自治体」と言われる長崎県北松佐々町は、買い物や通院が難しくなった高齢者に対し、移動支援体制の構築に奮闘している。地域で支え合う仕組みづくりを探った。

 佐々町の人口は約1万4千人。2020年3月末で65歳以上は3858人で、高齢化率は27.5%に上る。町は住民と協力し、08年から介護予防活動を積極的に展開。18年には介護予防などに関する厚生労働大臣最優秀賞を受けた。
 町は、地域住民で組織するボランティア団体「佐々町元気カフェ・ぷらっと」と共同で、高齢者らが気軽に立ち寄れる居場所づくりに取り組んできた。だが昨年、新型コロナでその活動が制限。さらに、遠方に住む家族の支援を受けられず、買い物や通院が難しくなったという住民の声が聞こえてきた。
 町職員らは昨年6月、移動支援の検討を本格的に始め、昨年11月から今年3月までの週2回、乗り合わせタクシーの実証実験を行った。バスや電車の利用ができず、1人での外出が困難な65歳以上の高齢者20人を対象に、自宅と町福祉センターや、医療機関、スーパー間を結ぶ区間を運行した。
 「免許を返納し、外出に困っていたので良かった」。利用者からは、こういった声が上がった一方、「軽い認知症があり、同乗者と同じペースで行動することがきつかった」「買い物の一連の流れを支援してほしい」との理由で実験中に利用を止めた人もいた。
 「足(交通手段)の問題ではなく、生活支援が必要だ」。実証実験を通して、そう考えた町職員らは、支援者がマンツーマンで利用者の状況や希望に沿ったサポートができるよう検討。支援者が自家用車を使える制度にして、事故が起こった際の保険などは行政がバックアップし、安心して運営できる体制を構築した。
 ボランティアは有償とした。支援者は30分当たり、利用者から「ぷらっと券」1枚(200円)、町から200円分の介護予防ボランティアポイントを受け取ることができ、それぞれ現金に変換できる。無料だと頼みにくいという利用者がいることや、町全体でボランティアを応援する仕組みにするのも理由の一つだ。
 最終的に出来上がった移動支援は、自宅と町福祉センター間を従来の社会福祉法人の車両に加え、社会福祉協議会の車両を「ぷらっと」メンバーが無償で借りて運転。それ以外のルートは支援者が自家用車を使う。現在9人がドライバーとして支援に当たっている。

◎1人を複数でサポート ボランティアの負担減に

 移動支援体制の構築が進む北松佐々町で、ボランティアが運転する自家用車を利用するのは、70~90代の女性8人(9月1日現在)。このうち、1人暮らしの竹久博子さん(86)の利用状況を取材した。
 基本、利用者1人に対し、支援者1人だが、竹久さんは看護師の松尾ゆかりさん(57)、竹久さんと顔なじみの関係である長谷川友子さん(66)と佐々木昌子さん(60)の3人に支えられている。都合のつく人が外出を手伝うことで、支援者側の負担感を減らし、地域で支え合う関係性を強める狙いだ。
 6月上旬、長谷川さんと佐々木さんの2人が竹久さんの自宅を訪れ、佐々木さんの車でスーパーに買い物に出掛けた。数年前から身体が思うように動かなくなった竹久さん。「これがおいしそう」「あれがよかね」。会話をしながら自分の目で商品を選ぶのが楽しいという。
 自宅に戻ると、竹久さんは「ありがとう」と言って、ぷらっと券を2人に渡していた。買い物だけではなく、銀行や役場の手続きの付き添いをしたり、アルバムを見ながら昔話に花が咲いたりすることもある。
 町職員の江田佳子保健師(49)は「コロナ禍でますます身近な人の支え合いが必要になっている。個人単位でその人に合った支援ができ、町内会単位の支え合いを目指したい。将来的には災害時での支援にもつなげたい」と語った。

 利用者や支援者を募集中。問い合わせは町地域包括支援センター(電0956.62.6122)。

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