住宅価格は上昇しているが、実は賃貸に住んでいる人も得をしている?

現在まで、首都圏のマンションを筆頭に住宅の価格は上昇してきており、数年前に住宅を買った人は、価格上昇の恩恵を受けています。では、持ち家の価格上昇の恩恵を受けていない賃貸派の人は損をしているのでしょうか。


賃貸か住宅購入かの迷い

前回「賃貸派に良い時期がやって来る?どうなる賃貸住宅市場の動向」のとおり、住宅の所有形態の希望については、賃貸派よりも持ち家派のほうが多いことがわかっています。しかし、実際の住まいは、賃貸に住んでいる人も多くいます。東京23区および政令指定都市で、借家に住む人の割合をみると、福岡市61%、大阪市55%、東京23区53%の順に多くなっています(図表1)。

また総務省の調査によると、「2017年4月から2018年3月の間に住宅を買った人」の約5割が「住宅を買う前は民間の賃貸住宅に住んでいた」と答えており、賃貸からの賃貸に住んでいる人のなかには、このまま賃貸に住み続けるか、住宅を購入するのか、迷っている人もいるのではないでしょうか。

住宅価格は上昇

現在、首都圏・近畿圏を中心に、マンションも戸建も、住宅価格は上昇傾向にあります。もしかしたら、賃貸住宅に住んでいる人の中には、数年前に住宅を買っていれば資産価値が増えていたのにもったいないことをしてしまった、と考える人もいるかもしれません。

しかし、賃貸住宅に住んでいるからといって、必ずしも損しているわけではありません。まず、通常の賃貸借契約では、貸主と借主の合意がなければ、家賃が上がることはほとんどなく、同じ賃貸住宅に住み続けていて、払っている家賃が契約時とほぼ変わらない人も多いのではないかと思います。

その一方で、賃貸マンションの家賃は、ここ10年ほどは上昇傾向にあった地域が多くなっています。住んでいる賃貸住宅の周りの家賃相場が上昇していれば、その人は家賃相場の上昇分を支払わずに済んでおり、得をしていると考えることもできます。

家賃相場の動向については、そのマンションの立地や規模により傾向が異なりますが、家賃の動向を示す、三井住友トラスト基礎研究所のマンション賃料インデックスを使って大まかな動向を確認したいと思います。

家賃が低かった時期と現在の家賃を比較すると?

全国のエリア別(札幌、仙台、東京23区、横浜・川崎、名古屋、大阪、福岡)に見ると、「直近で最も家賃水準が低かった時期」は、2009年から2013年の間にありました。この家賃水準が低かった時期と現在の家賃と比べてみると、多くのエリアで緩やかに上昇を続けており、2021年1-3月までに札幌+19%、仙台+22%、東京23区+22%、横浜・川崎+9%、名古屋+15%、大阪+25%、福岡+19%となっています。

ただし、仙台については、賃貸マンションが東日本大震災の避難先として使用された経緯から、震災後の家賃が急激に上昇しており、その後は、ほぼ横ばいで推移しています(図表2)。

また、東京23区の賃貸マンションの規模別に、「直近で最も家賃水準が低かった時期」と2021年1-3月を比較すると、シングルタイプ(18㎡以上30㎡未満)で+18%、コンパクトタイプ(30㎡以上60㎡未満)で+25%、ファミリー(60㎡以上100㎡未満)」で+26%も上昇しています。一般的に、市場に存在する賃貸マンションは数としてはワンルームタイプが多く、コンパクトやファミリーは少ないのですが、ここ10年ほどの家賃上昇局面においては、規模にかかわらず同様なペースで家賃は上がっています。

なお、シングルタイプとファミリータイプについては、直近では賃料は横ばいに近い動きになってきています。東京23区で、この規模の賃貸マンションについて、住み替えを考えている場合は、もう少し様子を見てもよいかもしれません(図表3)。

今の家賃は安いかも?

現在の住宅の価格は、首都圏のマンションを筆頭に、新築も中古も上昇傾向です。しかし、今、賃貸住宅に住んでいる人が、持ち家に住み替えをすると、家賃相場上昇局面で家賃があまり上がらないというこれまでの恩恵を受けられなくなることにもなります。

慌てて住宅購入を検討する前に、まずは自分の住んでいる賃貸住宅の家賃相場を確認し、現在の家賃と比べてみてもよいのではないでしょうか。

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