ソフト藤田倭、東京五輪で再確認した胸の内「自分はピッチャーが好きなんだ」

Honda戦に先発したビックカメラ高崎・藤田倭【写真提供:(公財)日本ソフトボール協会】

五輪後初戦のHonda戦に投打二刀流で出場

ソフトボール界の投打二刀流が、再スタートを切った。日本女子ソフトボールリーグ1部の後半開幕節が5日、神奈川県の大和スタジアムで行われ、ビックカメラ高崎の藤田倭(ふじた・やまと)投手はHonda戦で先発。スタメン発表では「4番・DP(指名選手)」だったが、先発マウンドに上がると、投手として2回2失点。ソロ本塁打2発を浴びたものの、打者としては同点適時三塁打を含む3打数1安打2打点と活躍し、5-2での勝利に貢献した。

出鼻をくじかれた。マウンドに上がった藤田は初回、Hondaの1番・森山に初球をいきなりセンターへ本塁打された。先制を許し、苦笑いするしかなかった。しかし、その裏の攻撃、2死二塁の場面で中越えの同点適時三塁打。「自分が点を取られたので、打って返そうという気持ちで」と振り返った。

投げる方はピリッとせず、2回先頭の長谷川に中越えソロを被弾。この回で降板となったが、試合には「DP」として残った。1点を追う5回、9番・山内早織の適時打で同点とし、なおも1死満塁のチャンスで第3打席へ。「次の1点が必要なところだったので、凄くドキドキしていました」。初球が左腕を直撃し、まさかの勝ち越し押し出し死球。「拍子抜けしました。ドキドキを返してほしいと思ったくらい」と、ちょっと複雑そうな表情を浮かべた。

東京五輪では、打者として打率.389(18打数7安打)、3本塁打、7打点をマークし3部門全てで日本代表トップ。金メダル獲得に大きく貢献した。一方、投手としてはビックカメラ高崎の先輩でもある上野由岐子、20歳の後藤希友(トヨタ自動車)の影に隠れ、2試合で計8イニングの登板にとどまった。1次リーグの米国戦は、既に決勝で当たることが決まっている相手との腹の探り合いだったが、藤田は先発して1人で投げ切り、最後は7回にサヨナラソロを被弾。この大会で日本唯一の敗戦投手となった。

「年齢とともに技術を磨いて、ピッチングをもっと繊細に考えていかなければならない」

「五輪で“投”の方で活躍できなかったことが凄く悔しくて、それで改めて自分はピッチャーが好きなんだと再認識しました。諦めず、自分の良い所を探しながらやっていきたい」と思いを新たにした藤田。2回で降板となったこの日の投球についても「チームが勝ったから言えることですが、思い通りの球を投げられた上での失投だったので、バッテリーで良い反省ができる。良いものも見えてきているので、そこを大事にしていきたい」と前向きにとらえた。

高校卒業後の2009年に太陽誘電へ入団し、2016年には投手として最多勝、打者として最多本塁打、最多打点に輝き、驚異の“投打3冠”を獲得。MVPにも選ばれた。今季から尊敬する上野が所属し、2019年、20年とリーグ連覇中のビックカメラ高崎に移籍した。このチームは、藤田、上野だけでなく、この日3回から3イニングを3安打無失点に抑えた濱村ゆかりら投手陣が豊富で「先輩の上野さんからも、後輩の濱村からも、どちらからも吸収できます」という。

右投げ右打ちの30歳。「日本リーグに長くいるので、相手も私がどういうボールを投げるかはわかっている。今までは勢いで乗り越えられたけれど、年齢とともに技術を磨いて、ピッチングをもっと繊細に考えていかなければならないと思います」と、ソフトボール人生の転機を感じている。「ソフトボール界の大谷翔平」の異名にふさわしい結果をもう一度残すまで、決して諦めはしない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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