東京パラリンピック閉幕、ヨットレースにチャレンジする視覚障がい者の女性「地上で叶わぬ夢、きっと海で」

© 株式会社ラジオ関西

東京パラリンピックは13日間の大会期間を終え、5日、閉幕した。組織委員会の橋本聖子会長は一夜明けた6日、オリンピック・パラリンピックを終え、新型コロナウイルスによる1年延期を経て開催された大会について「パンデミック(世界的大流行)後、世界で初めてのグローバルイベントであるオリ・パラを開催し、しっかりとバトンをパリにつなげたことを誇りに思いたい」と東京都内での会見で総括した。

「風、音を見て感じて」ヨットレースにチャレンジする視覚障がいの女性

パラリンピックでの選手の活躍に触れ、ヨットレースへの思いを強くした視覚障がい者の女性がいる。2021年10月開催予定だった第21回全国障害者スポーツ大会「三重とこわか大会」(第76回国民体育大会「三重とこわか国体」と同時開催、通称「障がい者国体」)に向けて初めてのヨットレースにチャレンジしようとしていた大阪府在住の鏑木(かぶらぎ)佐和子さん。国体中止の受け止めとパラリンピック閉幕について聞いた。

・・・・・・・・

鏑木佐和子さん<2021年8月28日・大阪北港マリーナ>

■予想外の国体中止、しかし新たな希望が

今年の春、新型コロナウイルス感染拡大のまっただ中でオリンピック・パラリンピックが開催されるのかどうか議論される中、私は、とこわか大会開催の有無について「オリンピック・パラリンピックが開催されるなら、きっと、三重とこわか大会も開催されるだろう」と思っていました。それなのに…、予想外の発表に大変驚きました。とは言え、中止が決まった以上、受け止めるより仕方がありません。大会をとても楽しみにしていただけに、大変残念です。

でも、希望はあります。私が出場を予定していたブラインドセーリング(視覚障がいのある選手が自力でヨットを操船するセーリング)の主催者の方から「(今後は)毎年8月に実施してきた三重でのハンザ(ヨット)の全国大会に、このブラインドセーリングを引き継いでゆきたい」という力強い言葉をいただいたのです。来年また、同じ形式のレースが出来るなら、新たな目標に向かって練習を続けていくのみです。

ブラインドセーリングにチャレンジする鏑木佐和子さん<2021年8月28日・大阪北港マリーナ>

■勇気もらった「パラリンピック」

東京パラリンピック。私は、今までのどのパラリンピックよりも楽しみました。私は、パラリンピックに限らず、オリンピックでも、競技を終えた後の選手のインタビューを見るのが好きです。思い切り力を出し切った後の選手のすがすがしさ、喜びが私にまで伝わって、心に染み入るからです。特に、印象に残った選手は、パラリンピック初出場、最年少の14歳、運動機能障がい・競泳(100m・50m背泳ぎ)の山田美幸さん。2つの銀メダルを獲得されました。山田さんは、よく「競技中、楽しめた」とコメントしていました。素晴らしいです!
そして彼女の座右の銘は、「無欲は怠惰の基である」。この言葉、聞いた瞬間から私の心の中にスッと納まりました。そして、この言葉を選んだ理由を彼女は、次のように語りました。「やはり何事も真剣に取り組むと、『欲』が出てくると思うんです。もっと上を目指したいとか、メダルを取りたいとか。欲が出ることは悪いことではないと思い、自分の欲に素直に従って全力で取り組んでいきたい、という思いを込めました」と。「欲が出ることは悪いことではない」。その迷いのない言葉や態度が、同じくスポーツを志す者として私を優しく励ましてくれたような気がして、胸の中が暖かくなりました。ほかには、車椅子ラグビー、乗馬、視覚障がい選手の水泳などが興味深かったです。

パラリンピックではメディアを通じて、色々な競技を観て、多くの選手の言葉を聴きました。自分の持てる力を最大限発揮しようとひたむきに取り組む選手の姿には、心打たれます。そういう意味では、オリンピック選手もパラリンピック選手も同じなんです。障がいがあってもなくても関係なく、ただそこに一人の(もしくは1チームの)スポーツ選手がいるだけなんですよ。ごく当たり前のことなんですが、自然に心からそう思えたほど見応えいっぱいの『東京2020オリンピック・パラリンピック』でした。

■叶えたい夢とコロナ収束への思い

まず第1に、日本ではまだ誰も経験したことがない、ブラインドセーリングのレースに出場することです。来年8月、三重でそれが実現できることを願っています。今年残念な思いをしただけに、来年こそは走ってみたいです。美しい海の上を。ダイナミックな波を全身で感じながら。今からとてもワクワクします。

このレースでは、安全のため、選手一人一人の船の後をモーターボートが付いてきてくれます。そして、何かのトラブルが起きた時や選手同士の船がぶつかりそうになった場合には、ハンドマイクで警告してくれるそうです。また、視覚障がい者には、レースのスタートラインを認識することが難しいため、スタート時は、このモーターボートに乗ったスタッフが選手の船をキャッチ&リリースしてくれることになっています。ヨットで周回する”ブイ”(浮標)の場所を選手が自力で見つけられるように、ブイから音を出すことはもちろん、ブイまでの距離を音声で知らせてくれるGPSのナビも利用できます。色々なことに配慮された、安心・安全で面白いレースになりそうです。

ヨットレースのポイントは「風向き」と「音」

また、来年7月にも地元大阪で行われるレースが予定されています。このレースは視覚障がい者だけでなく、車椅子の方、手が不自由な方、知的障がいの方、健常者の親子連れ、高齢の方など幅広く門戸を開き、毎年この時期に行われているのですが、次回は特に楽しみです。なぜでしょう?このようにさまざまな方が大勢参加されるレースでは、目が見えにくい私は、他の船にぶつかって迷惑をかけないかと心配で、これまでは、なかなか一人乗りで参加する勇気が出ませんでした。ところが、今年7月に行われたレースで、その気持ちを克服することが出来ました。なぜか?「これは視覚障がい者が乗っている船だ」ということが周囲の人に一目で分かるように、船に印を付けたからです。視覚障がい者が町を歩く際、白杖を持つことで周囲の人に注意してもらえるのと同じ理屈です。目立つ色のセール(帆)にしたら良いのでは、とアドバイスをいただき、いつも応援してくださる方から濃い茶色のセールを選んでもらったのです。このように周囲の方のご理解とご協力のもと、地元でも一人乗りのレースを楽しめるようになって、とても嬉しいです。こちらのレースでも、ブイから音が出るようになっています。

ボランティアスタッフの愛に支えられ、期待に応えたい

私にとってヨットは、地上では叶えられない、車や自転車を運転して、自由に走り回りたい、という夢を叶えてくれるもの。同時に、大好きな海を思い切り味わえるものです。そんなヨットに出会えた幸運をかみしめながら、これからもずっと、セーリングを続けて行きたいです。そして、そのかけがえのない楽しみをどんな時も応援してくれる、マリンスポーツを愛する人たちのグループ「セーラビリティ大阪」のみなさんをはじめ、ボランティアの方々の愛に報いるためにも、レースで良い成績を残したいです。そしてさまざまなスポーツ大会が安心して行うことができるよう、1日も早いコロナの収束を願っています。