「歳をとったら、お金を使わなくなる」というのは間違い!定年後の本当のリスクは何?

定年後の保険は、どうすればいいのかという相談を受けることが多いです。

「定年したあとは、あまり保険は必要ありませんよ」というと、「えっ、なんで?」と驚かれ、さらに「年金生活になると、もっと必要なくなるでしょう」というと、もっとびっくりされてしまいます。

「高齢になっていくと、病気の確立も高くなるし、入院や認知症のリスクも増えていくのに、ほとんど必要ないってどういうこと?」となるようです。これは病気のリスクとお金のリスクを間違えているのです。

今回は、定年後の本当のリスクと備えについて、お話しをしましょう。


病気のリスク。現役vs定年後

たしかに年齢が上がることによって、病気になる確率は高くなり、入院の確率も上がります。平均寿命と健康寿命の差を見ても歴然です。では、病気などで入院したときのお金のリスクを考えてみましょう。

もともと、治療費の自己負担額というのは、健康保険で3割、さらに高額療養費制度があるので、それほど多くはありません。年金暮らしで所得が多くない場合は、月額の上限が5万7,600円です。さらに住民税が非課税ならば、上限は2万4,600円です(70歳以上の場合)。

現役時代の大きなリスクは、病気をしたとき、働けなくなる可能性があることです。つまり働けなくなると収入が減り、家族が困った状態になってしまいます。しかし、定年後の場合、仕事を辞めていて年金を受け取っていると、一定の収入が確保できるので、影響が少ないといえます。

病気や入院のリスクは高まっても、生活費のリスクは現役時代に比べて低いのです。もちろん、入院などをすると出費が多くなるというのも事実ですから、ある程度の余裕資金は必要です。

がんのリスク。現役vs定年後

がんのリスクも同じです。

高齢になればなるほど、がんの罹患率は高くなります。しかし、がんも普通の病気とおなじく、3割負担ですし、高額療養費制度も使えますので、お金のリスクは変わりません。むしろがんで最も大きなリスクと言うのは、抗がん剤などの治療による働けないリスクです。

ですが退職しているのであれば、この生活費の影響も少ないといえます。

介護のリスク

それでは介護のリスクはどうでしょう。これはたしかに大きなリスクです。ある程度備える必要があります。だからといって、介護は、医療保険では対処できないことが多いのです。

なぜなら、医療保険は、入院などが前提になっているので、要介護の認定を受けて自宅療養という場合には役に立ちません。しかも、この自宅療養は長期に渡ることが多いのです。そこで役に立つのは公的介護保険、民間の介護保険なのです。

まずは、公的介護保険があるので、介護サービスにかかる費用は原則1割負担です。

とはいっても、やはり自己負担は大きくなってきます。介護費用のアンケート調査によると平均で800万円ぐらいの自己負担が必要だといわれています。介護する期間が、平均で3年7ヵ月です。しかし、人によってこの介護期間というのは、変わってきます。なかには長期に渡ることもあり、そうなると自己負担額も当然多くなるのです。

「歳をとってからお金は使えない」は誤解

「元気なときに旅行に行って楽しまないと、歳をとってからではお金が使えなくなる」というのは、一理あります。しかし、「歳をとってからお金が使えない」というのは、誤解です。歳をとってからもお金は必要です。

自分があまり動けなくなったとしたら、介護の出費が増えてくるのです。ましてや高齢者施設などに入居を希望する場合などは、入居のための一時金や、月額利用料がかかります。

ですから、元気な内にお金を使いたいからと言って、年金の繰上げ受給をしてしまうと、年金の受取額が減り、後で後悔をすることになります。

そのためにも、毎月の生活費を補塡するための老後資金とは別に余裕資金を準備しておく必要があるのです。では、余裕資金は、どのくらい必要かというと、やはり介護で必要とされている800万円はあると安心でしょう。

認知症保険よりも介護保険を優先に考える

余裕資金は、預貯金や投資信託などの使いやすいもので、用意しておくといいでしょう。幸い介護が必要ない場合は、老後資金として使えばいいからです。

残念ながら、余裕資金が準備できない人は、掛け捨ての安い介護保険などで備える方法があります。

認知症保険も発売されています。たしかに認知症になると通常の介護費用よりもお金がかかります。しかし、認知症と診断されなければ、給付金を受け取ることができません。骨折とか脳梗塞で介護が必要な場合には使えません。そのため認知症保険よりも介護保険の方が幅広く備えることができます。

高額な死亡保障は不要、ただし相続対策では必要

現役時代は、子どもが小さいときに、もしものことがあると残された家族が大変になりますから、高額な死亡保障が必要でした。しかし、年金暮らしになると、もしものことがあって経済的に困る人がいなければ大きな死亡保障は、もう必要ありません。もちろん、相続などで問題が起きる場合は別です。しっかりと相続対策のために、終身保険などを使って、備えておくことが必須になります。死亡保険金は、相続税の税負担を軽くできるからです。

それ以外では、葬式代など。また残された配偶者のためのお金も必要になりますが、配偶者も年金があるので、高額な死亡保障でなくても大丈夫でしょう。

つまり、現役時代のような高額な死亡保障は必要ではなくなります。こう考えていくと、定年後、そして老後のお金のリスクの正体がわかってくると思います。

大きなお金のリスクは、介護になった時と、相続でもめそうなときです。ご自分の場合、何が必要なのかを考えて検討してみてはいかがでしょうか。

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