人工知能(AI)が、私たちの身の回りのさまざまな場面で使われるようになってきた。お薦めの商品だけでなく、就職先や結婚相手も提案してくれる。生活を便利にする一方で、人間の能力を超え大きな力を持ってしまうのではないかという懸念もある。AIは私たちを本当に幸せにしてくれるのだろうか。人工知能学会の野田五十樹会長にAIとどう付き合っていけばよいか聞いた。(共同通信=沢野林太郎)
―AIの能力が人類の知能を超える日が来るという仮説がある。
「それは遠い先の話だ。囲碁や将棋でAIは人間より強くなったが、それは決められたルールの中の戦いだからだ。確かにここ数年でAIはものすごいスピードで進化している。特にスマートフォンの普及の影響が大きい。人々の位置情報や映像など多くのデータを入手できるようになったことで、これまでマクロの視点で見ていたものが一人一人に合わせたミクロの視点でシミュレーションができる。膨大なデータから特徴や傾向をつかみ予測する能力は高い。経済予測、医療、災害、教育など社会問題の解決に大きな役割を担い始めた」
「しかしAIはコピーはできるが新しい創造はできない。商品の売れ筋データを分析すると次に何が売れるかは予測できるが、それはこれまである商品の中だけの話。ヒットする新商品を提案はしてくれない。例えば誰の耳にも心地よい音楽を奏でることはできるが、若者に人気のAdoが歌う『うっせぇわ』のような前例のないものは生み出せない。人間のような会話もできない。会話は声の調子や表情などの要素が組み合わさって成立する。AIに空気は読めないのだ」
―人間の仕事の多くがAIに奪われるとの脅威論もある。
「計算機が発明されてそろばんの代用となった。車が発明されて馬車の代わりとなった。しかし人類が負けたわけではない。AIは人類の発明の一つにすぎない。人間は人間にしかできないことをすればよい。AIががんを見つけても手術するかどうかを決めるのは医師。患者にとって最も良い選択を考えるのは人間の仕事だ」
―AIが人間に提案するという場面を目にすることが増えた。
「スマートフォンにAIのお薦め商品が表示される。就職先や結婚相手も提案してくる。しかしAIの提案は選択肢の一つにすぎない。自分の経験や知識に基づき、あるいは人の意見を聞いて、時には占いに頼って物事を決めてよい。AIが絶対だという『AI教』のような考えは間違いだ。知能とは速く計算できることでも大量に知識があることでもない。知能とは人が幸せに生きていくための能力である」
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のだ・いつき 1963年、兵庫県生まれ。京都大大学院修了。北海道大大学院情報科学研究院教授。専門は人工知能。