ル・マン/WECのGT3採用は「脅威ではない」とSROのステファン・ラテル「控えめに貢献」する考えも

 ル・マン24時間レースおよびそれに関連するチャンピオンシップでは、2024年からFIA GT3規格が導入される。この動きについて、GTワールドチャレンジなどGT3車両をメインカテゴリーとしたレースを運営するSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)のステファン・ラテルは、彼のシリーズに悪影響が及ぶことはない、と語っている。ラテルによれば、GT3の市場は両者が共存していくのに「充分な大きさ」があるからだという。

 FIAとACOフランス西部自動車クラブは先月、ル・マンを含むWEC世界耐久選手権、ならびにELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズにおいて、現在のLMGTEに代わって2024年からFIA GT3をGTカテゴリーに導入すると発表している。

 SROは2005年にGT3を創設。以来、市販車ベースのこの規格は国際的な人気を博し、多くの自動車マニュファクチャラーがマシンを製造、多くの国内および地域シリーズにおいてGTレースの主流となっている。

 先週末、ファナテックGTワールドチャレンジ(GTWC)・ヨーロッパのニュルブルクリンク戦でラテルは記者団に対し、WECにおけるGT3の採用が、GTWCやIGTCインターコンチネンタルGTチャレンジなどSROシリーズに脅威を与えるとは思わないと述べた。

「この(GTWCの)パドックにいる人々すべてが、WECに行くだろうか? 私はそうは思わない」とラテルは語っている。

「ル・マンにおけるハイパーカー、そしてLMP2の台数を数えてみてほしい。いずれにせよ、そこでのGTカーの数には限りがある」

「SROのGT3全体が、そのグリッドにつくわけではない。それは不可能だ。グリッドが100台分あるなら話は別だが」

「クラス優勝よりも、総合優勝を望む者もいる。一方で、プロトタイプカーで出場することを好まない者も、常にいる。その(GT3の)世界は、充分に大きいと思う」

「また、ル・マンがGT3カテゴリーとなることで、それに惹きつけられるチームやドライバーが(SROエントラント以外にも新たに)増える可能性がある」

「WECに参戦するチームのなかに、スパ24時間にも参戦したいと考える者もいるかもしれない。私はコルベットの記事を読んだ。彼らがもしGT3に参入するとしたら、世界の大きなGT3イベントにも目を向けると語っていた。おそらく彼らは(IGTCの)キャラミ、バサースト、スパを検討するだろう」

「以前は、いろいろと心配されることもあった。だが、我々は依然として、世界的に成功しているプラットフォームとして存在する。いまのところは、それがどのように進展し、どこに向かうのか、見守りたい」

2021年のトタルエナジーズ・スパ24時間(IGTC/GTWCヨーロッパ)で優勝したアイアン・リンクスは、WEC/ELMSにもGTE車両で参戦している。

 ラテルはまた、FIAとACOがGTカテゴリーを“オールプロ”ではなく“プロ/アマ”のラインアップとする方向性であることを支持している。

 このクラスをプロ/アマに限定する動きについては、2023年にLMDh規格でハイパーカークラスに参入するポルシェとフェラーリが支持しており、シボレーのファクトリーチームであるコルベット・レーシングは懸念を表明している。

 プロ/アマに限定する場合、一部のチームがGTWCヨーロッパにおける同様のカテゴリーから離れてしまう可能性があることをラテルは認めているが、もしFIAとACOがオールプロのラインアップに対してエントリーをオープンにした場合でも、同じような影響があるだろうと述べている。

「どんな結論になるのかは分からない」とラテル。

「我々はGT3を育てていく必要があると思う。『ラテル、君はとても心配しているに違いない』と言う人もいるが、どういうわけは私は心配していない。私がとても気にかけていたのは、彼らが“GT3プロ”を導入することだった」

「計算したわけではないが、そう(WECがプロを受け入れる)となれば我々のシリーズにとってはより良かったはずだ。ファクトリーチームが、我々からアマのドライバーを連れて行くことはない。だがプロ/アマとなる場合、いくつかのチームは彼らの側に移動するだろう」

「おそらく私は、マニュファクチャラーからの勢いを少し失うだろう。だが、ジェントルマンドライバーの市場は維持されるはずだ。あるいはその逆として、いくつかのチームはジェントルマンとともにここから出て行くだろうが、プロチームがここに残ることもあるだろう」

「ル・マンがプロ/アマになることによって我々が影響を受けるのかどうか。私はそれをまだ経験していない(ので分からない)」

■“プロ化”によるカテゴリー終焉に備え、“バックアッププラン”も準備するラテル

 ラテルはまた、ファクトリーがサポートするプロレベルのGTレースへの移行は、この規格に対して悪影響を与える可能性が高いことを示唆している。

「私は、何がSROにとって良いことなのかという短期的な分析に基づいて話しているわけではない」とラテル。

「私はGTレーシングの愛好家として、そして(カテゴリーの)設計者として語っているまでだ。ひとつ確かなことは、レシピを変更せずに同じ材料を入れたら、似たようなものになってしまう、ということだ」

「キーとなる疑問は、GTプロを必要とし、この種のプログラムの実行するために3000万〜4000万ユーロの予算を準備するマニュファクチャラーがいた場合、それはマニュファクチャラーを殺すだけ、ということだ。彼らは同じことを繰り返し、浪費をしてシリーズを離れることになる。いつも同じことが起こるんだ」

「優れた技術規則ではなかったから、GTEが消滅するのではない。マニュファクチャラーが直接関わったから死んだのだ。これはDTMやLMP1など他のものが終焉を迎えたのと同じ理由だ」

「何度も繰り返されている、同じストーリーだ。我々は大きな打撃を受けることなく、15年間にわたってGT3のシリーズを維持してきた。力強く始まり、そしていまなお力強い15年間だ」

 過剰な支出によってGT3カテゴリーが将来的に劣化していく場合に備え、ラテルにはバックアッププランもある。2018年に発表されたGT2規格には、現在5つのマニュファクチャラーが参入している。

 将来の“保険”計画の一環として、2024年のスパ24時間レースにおいて、必要に応じGT2クラスを導入することに「心配はない」としている。

「もし(ル・マン/WECが)GT3プロに向かうのであれば、GT3がGTEにとって代わり、GT2はGT3にとって代わる」とラテルは説明している。

「とりあえず聞いたところによれば、(ル・マンは)プロ/アマ向けになるという。いいだろう。GT3は進化することができる。(彼らは)『GT3規則をベースとした』と言っている。“ベース”とは何だ? まだ多くのものが不確実だ」

「私はル・マンと良い対話をしている。我々は手に手を取って仕事をしていると思う。我々が顔を突き合わせるなんて、かつては考えられなかったことだ」

オレンジ1 FFFレーシングのランボルギーニ・ウラカンGT3 Evo(2021年トタルエナジーズ・スパ24時間)

■SROからのGT3 BoPの提供については「時期尚早」

 FIAとACOが2024年のGTルールの転換を発表した2021年のル・マン24時間の現場にいたラテルは、単に共存していくだけでなく、3者間での『コラボレーションの精神』を楽しみにしているという。

 正式な合意はないものの、何らかの方法でSROがこのカテゴリーに「控えめに貢献する」ことに関心があると、ラテルは述べている。

「すべては可能だ。もし誰かが私にDTMに近づいてくれと頼んだら? それはあり得ない。だが、それがACOならイエスだ。なぜか? 我々は“同じ世界”からやってきたからだ」

「(1台あたり)ひとりのドライバーというDTMのようなことを実行するなら、私の考えでは、それは私が完全にフォローするような何かではない」

「だが、ル・マンはGTEとGT3でどんなことをしているだろうか。それならいい。我々が互いに良くするのはいいことだし、我々が物事をうまく機能させる方法を見つけることができ、このカテゴリーを立ち上げて15年間世界中でプロモートしてきた経験を用いて控えめに貢献することができるなら、それは良いことだ」

 SROがGT3のBoP(性能調整)システムを将来のル・マンのGTクラスに対して提供できるかどうかを訊ねられたラテルは、次のように答えている。

「いずれ分かる。いまそれを語るのは時期尚早だ」

「だが、確かにコラボレーションの精神はある。彼らはLMDhにおいてIMSAとパートナーシップを結んだことで、その種のパートナーシップのもとに仕事ができることを証明している」

1台をふたり以上のドライバーでシェアすることなど、レースに耐久的要素があることが、SROとFIA/ACOの協業の決め手のようだ。

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