後継者難倒産、代表者の「死亡」と「体調不良」が82.6%(2021年1-8月)

 2021年1-8月の『後継者難』の倒産は、累計236件だった。前年同期の244件より8件減少(3.2%減)した。倒産全体(3,986件)に占める構成比は5.9%で、前年同期の4.4%を1.5ポイント上回り、調査を開始した2013年以降で最高を記録した。
 産業別は、サービス業他が51件(前年同期比10.8%増)で最多だった。次いで、建設業45件(同21.0%減)、製造業42件(同5.0%増)と続く。
 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)は126件(前年同期比4.5%減、構成比53.3%)で、半数以上を占めた。
 負債額別では、1億円未満が163件で、約7割(構成比69.0%)を占めた。ただ、1億円以上5億円未満(54→63件)、5億円以上10億円未満(5→7件)は増加しており、小・零細企業だけでなく、次第に中堅規模でも事業承継の問題が顕在化している。
 『後継者難』倒産の236件のうち、「死亡」が128件(構成比54.2%)と、1-8月累計で2年連続で100件を超えた。次いで、「体調不良」が67件(同28.3%)で、この2要因で『後継者難』倒産の8割(構成比82.6%)に達した。多くの中小企業では、代表者が経営全般を担っており、代表者の不測の事態に直面した企業は難しい状況に陥ることを表している。
 業績回復が遅れている企業ほど、後継者育成は先送りされている。代表者の高齢化が進んでいるだけに、事業承継への対応が重要な経営課題の一つに浮上している。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年1-8月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産236件、倒産全体の5.9%を占める

 2021年1-8月の『後継者難』倒産は、累計236件(前年同期比3.2%減、前年同期244件)に達した。全体の倒産(1-8月累計3,986件)はコロナ禍の資金繰り支援策が奏功し、低水準で推移しているが、『後継者難』倒産は全体の5.9%(前年同期4.4%)に上昇した。
 金融機関の貸出審査は、財務内容に基づくスコアリングが中心だった。しかし、最近は事業の将来性などを判断材料とした「事業性評価」が浸透し、後継者の有無も重要な判断材料の一つになっている。
 中小企業の多くは、代表者が経理や営業など経営全般を担っている。このため、コロナ禍で業績が落ち込むなか、後継者育成や事業承継への準備は優先順位が低くなる傾向が強い。代表者の高齢化は進んでおり、事業継続へのリスクが高まっている。
 中小企業の後継者問題は、地域経済の衰退を招く恐れもあり、個別企業の対応だけでなく外部の協力も必要になっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別の最多は、代表者などの「死亡」の128件(前年同期比21.9%増、前年同期105件)。調査を開始した2013年以降、1-8月累計では2年連続で100件を超え、最多件数を更新した。
 『後継者難』倒産に占める構成比は54.2%(前年同期43.2%)で、前年同期より11.0ポイント上昇した。
 また、「体調不良」は67件(前年同期比19.2%減、構成比28.3%)で、2年ぶりに減少した。
 「高齢」が23件(同23.3%減、同9.7%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計195件(前年同期比3.7%増、前年同期188件)で、2年連続で前年同期を上回った。『後継者難』倒産に占める構成比は82.6%(前年同期77.3%)と、前年同期より5.3ポイント上昇した。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は5産業、1産業が前年同期と同件数だった。
 増加では、サービス業他が51件(前年同期比10.8%増、構成比21.6%)で、1-8月累計は2年連続で増加した。
 サービス業他では、広告業(ゼロ→4件)や建築設計業(1→4件)などを含む「学術研究,専門・技術サービス業」(3→11件)、美容業(1→4件)や旅行業(1→2件)などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」(3→9件)、「物品賃貸業」(ゼロ→3件)などで増加した。
 そのほか、製造業42件(前年同期40件)が2年連続、金融・保険業1件(同ゼロ)と不動産18件(同9件)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 一方、減少では、小売業26件(同33件)が3年ぶり、建設業45件(同57件)と卸売業39件(同41件)、運輸業9件(同10件)、情報通信業3件(同6件)が2年ぶりに、それぞれ減少した。
 農・林・漁・鉱業は前年同期と同件数だった。

後継者難

【形態別】消滅型倒産の構成比が過去最高の96.1%

 形態別では、最多が「破産」の215件(前年同期比0.9%増、前年同期213件)で、『後継者難』倒産に占める構成比は91.1%(前年同期87.2%)と、前年同期より3.9ポイント上昇した。
 また、「特別清算」が12件(前年同期比140.0%増、前年同期5件)だった。
 「破産」と「特別清算」は合計227件(前年同期比4.1%増)で、構成比は96.1%(前年同期89.3%)に達し、『後継者難』倒産のほとんどは消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件、会社更生法は調査を開始した2013年以降、1-8月累計では発生がない。

【資本金別】1千万円未満が5割以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が126件(前年同期比4.5%減、前年同期132件)。『後継者難』倒産に占める構成比は53.3%(前年同期54.0%)と、5割を超えた。
 一方、1億円以上は前年同期と同件数の1件だった。

【負債額別】中堅規模での増加も顕在化

 負債額別では、1億円未満が163件(前年同期比9.4%減、前年同期180件)。『後継者難』倒産に占める構成比は69.0%(前年同期73.7%)で、引き続き小規模倒産が主体となっている。
 ただ、1億円以上5億円未満が63件(前年同期比16.6%増、前年同期54件)、5億円以上10億円未満が7件(同40.0%増、同5件)と、1-8月累計ではそれぞれ2年連続で増加し、中堅企業でも事業承継の問題が顕在化している。

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