石木ダム本体工事着手 混迷 一層深まる恐れも

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 長崎県が石木ダムの本体工事に着手したことで、事業は新たな局面に入った。地元住民や支援者の反対運動が活発化し、一層混迷を深める恐れがある。
 県が昨年暮れから模索を続けてきた住民との対話は、先月末に事実上とん挫した。対話当日に限り工事を中断したい県と、即時中断をして対話に臨みたい住民側の思惑は最後まで相いれなかった。
 県と佐世保市には「いったん工事を止めると再開させてもらえない」との懸念があったのは事実だが、結果、一昨年9月の対話以降何の進展もなく、本体工事に着手することになった。
 住民側には、県がこのまま行政代執行に踏み切り家屋などを強制撤去するのかという不安が高まっている。これに対し中村法道知事は先月末の定例会見で「判断を要する状況になれば」と含みを持たせた。当面撤去せずとも工事を進められるのであれば、代執行までまだ時間があるとも取れるが、いずれは突き当たる問題だ。
 その時、知事や佐世保市長が政治的リスクを取り、世論の反発必至で強制撤去するのか。それとも既に土地を明け渡した人や推進派の抗議を承知で事業を断念するのか。ただ、それまで行政と住民が消耗戦を続けても何も生み出さないどころか、対立が一層泥沼化している可能性もある。
 確かに司法判断は事業の必要性を一定認めている。だが最近は水需要を巡り新型コロナという「変数」も加わり、状況が変わった側面もある。県と佐世保市は事業の権限を持つ側として、いま一度住民と真摯(しんし)に向き合う懐の深さを示すことができないか。