【追悼・千葉真一】世界的スターの“時代劇”への熱き想いと傑作の数々 『柳生一族の陰謀』『将軍家光の乱心 激突』ほか

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千葉真一さんを偲んで

2021年8月19日、千葉真一さんが亡くなられた。

日本のアクション映画の第一人者であり、近年では多くの海外映画への出演だけでなく、人気俳優兄弟・新田真剣佑、眞栄田郷敦の父としても有名だった千葉さん。しかし、新型コロナウイルス感染症による肺炎のため82歳の人生に幕を下ろされた。

追悼・千葉真一 国内外の俳優、映画関係者からおくやみの声

千葉さんといえば、何を思い出すだろうか。報道やワイドショーなどでは、千葉さん人気を爆発させた『キイハンター』(1968年)が大きくフィーチャーされていた。『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)の大友勝利役や、『沖縄やくざ戦争』(1976年)の国頭正剛役といった実録やくざ映画路線での千葉さんも素晴らしかった。

また、海外での人気爆発の起爆剤となった『激突!殺人拳』(1974年)などの殺人拳シリーズや、『直撃!地獄拳』(1974年)などの地獄拳シリーズに代表される、カラテ映画の数々を思い出す方も多いと思う。もちろん『宇宙快速船』(1961年)や『宇宙からのメッセージ』(1978年)といったマニアックなSF映画での千葉さんが好きという方もおられるだろう。

そして筆者は“自分がリアルタイムで観た千葉さん“という意味でも、『柳生一族の陰謀』(1978年)から始まる時代劇アクションでの千葉さんが最も印象深く残っている。

東映オールスター時代劇『柳生一族の陰謀』、異色タイムスリップ時代劇『戦国自衛隊』

『柳生一族の陰謀』は、東映がお家芸の時代劇再興を狙って制作したオールスター時代劇。日本映画の屋台骨を支えてきた萬屋錦之介、山田五十鈴、丹波哲郎、芦田伸介といった大御所スターから、西郷輝彦、大原麗子、夏八木勲といった脂の乗ったスター俳優、そして千葉さんの創設したジャパンアクションクラブ(JAC/現ジャパンアクションエンタープライズ)の若手俳優である真田広之、志穂美悦子までが勢揃いしたこの作品で、千葉さんは監督の深作欣二の強い希望で主役の柳生十兵衛を演じ、日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。

千葉さん演じる柳生十兵衛はまさに当たり役となり、本作のテレビドラマ版『柳生一族の陰謀』(1978~1979年)では再び成田三樹夫演じる剣豪公卿・烏丸少将文麿と激突し、好評を博した。また、テレビドラマ『柳生あばれ旅』(1980~1981年)や映画『魔界転生』(1981年)など、何度も柳生十兵衛を演じるハマり役となったのだった(『アベンジャーズ』シリーズ[2012年~]でサミュエル・L・ジャクソン演じるニック・フューリーの眼帯姿は千葉さんが演じた柳生十兵衛からインスパイアされているとのこと)。

そして『柳生一族~』と同じく、フカキン、ヨロキン、千葉さんが再結集した『赤穂城断絶』(1978年)が興行的に予想を下回る失敗に終わり、東映時代劇の復活はわずか2年で終了してしまう。そこで、メディアミックス戦略で躍進中だった角川春樹事務所(角川映画)と組んで制作されたのが、異色の時代劇『戦国自衛隊』(1979年)だった。

魔改造で戦車を自作! 真田広之の危険スタント! 1979年『戦国自衛隊』は製作費11億超のお正月アクション大作!!

半村良のSF小説をベースに製作された本作は、各兵科の最小戦力を戦国時代に送り込んだ時にどうなるか? というシミュレーション小説だった原作の趣旨から大きく変化。戦国時代に送り込まれた昭和の青年たちが、どのように生きるかを描く青春群像劇となっている(角川側が「日本版『アメリカン・グラフィティ』[1973年]を目指す」として監督に斎藤光正を選んだ影響が大きい)。千葉さんは、戦国時代の狂気にさらされていく陸上自衛隊の伊庭義明を熱演。JAC創設10周年記念作品でもあり、JACメンバーによる馬術、真田広之のヘリコプターからの大ジャンプなどアクションの見所も多く、自衛隊の協力が得られずにフルスクラッチされた61式戦車など、すさまじい熱量のアクション映画である。極上のサウンドトラックも必聴の作品だ。

最期の大型時代劇映画『将軍家光の乱心 激突』

その後も千葉さんの時代劇アクションへの情熱は続き、若手を主軸とした『忍者武芸帳 百地三太夫』(1980年)、『魔界転生』、『伊賀忍法帖』(1982年)、『里見八犬伝』(1983年)といった作品でヒットを重ねていった。

そして千葉さん最後の劇場公開大型時代劇映画となったのが『将軍家光の乱心 激突』(1989年)である。大河ドラマ『独眼竜政宗』(1987年)などのヒットを受けて、東映が三度時代劇復興をかけて制作された本作は、「『ランボー』のようなアクション映画にしろ!」という東映岡田茂社長の鶴の一声でド派手なアクション映画として制作を開始。早々に千葉さんがアクション監督を務めることが決定し、全アクションシーンの演出と編集権を千葉さんが手に入れ、監督の降籏康男との完全協力体制を構築して制作されたのだった。

本作はストーリーの整合、特撮に不備がある部分がある作品とされている(主演の緒形拳もその旨の発言をしている)。しかし、アクションを主軸にした痛快作を作ろうという千葉さんの本気度はバリバリに感じられる作品であり、馬の転倒シーンなどは『戦国自衛隊』をしのぐレベル。人馬共に火だるまになって突撃するシーンなど、度肝を抜かれるアクションが次々と披露されている。

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公開タイミングが昭和天皇の崩御と重なってしまったこともあって興行的には苦戦した作品だが、制作者たちのアクション時代劇復活に向けた強い思いは当時、高校生の筆者も強く感じたものだ。

こうして振り返ってみると、千葉さんのキャリアの全盛期は時代劇に捧げられていることが分かるだろう。晩年の千葉さんは多くの時代劇アクションの企画を持って、各所へ売り込みをされていたと聞く。千葉さんの満足いくどデカいスケールの時代劇アクションを最後に作ってほしかったなと思いながら、千葉さんのご冥福をお祈りしたい。

文:高橋ターヤン

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