「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」衛星放送協会オリジナル番組アワードグランプリ受賞

BS12 トゥエルビで今年3月に放送されたドキュメンタリー、BS12スペシャル「村本大輔はなぜテレビから消えたのか?」が、第11回衛星放送協会オリジナル番組アワードのグランプリを受賞。これを記念して、同局で9月11日(深夜4:00)に再放送が決定した。

番組では、原発や沖縄の基地問題などを漫才のネタにし始めた2017年頃から、テレビ出演が激減したウーマンラッシュアワー・村本大輔に密着。さらに、村本がテレビから消えた理由を関係者に取材し、テレビの制作現場に漂う空気、そして社会におけるお笑いの役割と可能性をあぶり出す。

同アワードの審査員長・吉岡忍氏は「コロナ禍は、閉塞した現在を生きる視聴者の知的欲求に応えていない、というテレビの弱点をあらためて明らかにした。たしかに膨大な情報は伝えているが、それを読み解き、時には泣き、怒り、笑い飛ばして暮らしの質感に転化する力が、今のテレビにはない。村本大輔はその弱みに気付いてしまった芸人である。彼は3.11被災地や原発事故の現場、都会の雑踏や地方の過疎地を歩き、現場と情報の目のくらむような落差を肌身に感じながら、新たな笑いをつくり出そうと呻吟(しんぎん)している。ニューヨークへ飛び、夢中で習い覚えた英語で小さな舞台に立つ姿からも、その必死さが伝わってくる」と述べ、「彼の言葉のいちいちを“政治的発言”などと忌避する日本のテレビに、われわれの未来を預けるわけにはいかない。自粛や忖度(そんたく)によって切り縮められた笑いの無力さを突き、テレビの弱点を突き抜けようとするテレビ――その可能性に賭ける村本と制作者に拍手を送りたい」と称賛した。

番組を手掛けた佐々岡沙樹プロデューサーは「2年近く前に、村本さんがアメリカのスタンダップコメディーに挑戦するという番組が放送できなくなったことを制作会社の方から聞き、初めて村本さんの独演会を見に行きました。その時に世間的に言われている村本さんの印象との間に大きな差を感じました。それと同時に感じた、なぜテレビで放送できないのだろう?という素朴な疑問から、村本さんを通して、放送業界にいる自分自身、原点に立ち返ってテレビというメディアについてあらためて考えたいと思い、この番組を企画しました」と意図を説明。

加えて「番組内で『誰も傷つけないお笑いは存在しない』という村本さんのコメントがありますが、テレビ番組も同様だと思います。どんなに悩み抜いて制作をしても、必ず誰かを傷つけていると思います。しかし、この番組制作を通して、最後に自分の中に残ったのは、『それでも悩み続けるしかない』『制作者たるもの、楽をしようとするな』という当たり前の自戒でした」と語り、その言葉からは、テレビ制作に関わる人間としての矜持が垣間見えた。

また、同局の編成部長・清水友明氏は、本作制作の決め手は二つあったことを明かし、一つ目として「このテーマは他局ではなかなか制作できないだろう、という点。他局が触らないということは、リスクも相応あると考えましたが、一定数の視聴者の方に支持いただけるのではないか、また、最後発でまだまだ小さなBS放送局であるわれわれだからこそ、果たせる役割があるのではないかと考え決断しました。こちらについては、制作メンバー一丸となって丁寧に制作してくれたこと、視聴者の皆さまがわれわれ放送側の意図をくんでいただけたことにより、乗り切ることができたと考えています」と感謝。

そして二つ目に「こちらの方が個人的には大きいかもしれませんが、何よりもこのテーマを一度掘り下げ、結果生まれてくるものを私自身も見てみたかった」と話し、「SNSなどが発展し、情報を受発信する機会は格段に増えました。にもかかわらず“きちんと伝わる”ことや“きちんと議論する”ことは以前より難しくなっていると感じていたからです。本作の放送を通じて、視聴者の皆さまにもこれらの原因や本質につき、考えるきっかけ、議論をするきっかけになれば幸いです」とメッセージを寄せた。

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