宿泊・飲食産業はもうもたない…内部留保はほぼ枯渇、財務面から見る業界の深刻度

新型コロナウイルスの日本の新規感染者、重症者はこのところ減少傾向にあります。一方、9月12日に期限を迎える緊急事態宣言は感染者数の「高止まり」を理由に9月30日まで延長される見込みです。

2021年は緊急事態宣言のみならず、まん延防止等重点措置のもとで営業時間短縮に加え酒類提供も過料の罰則付きで命令されており、特に東京都では緊急事態宣言とまん延防止等重点措置のいずれも発出されていなかった期間は年初と3月から4月にかけてのわずか3週間ほどとなっています。

経済再開に積極的な姿勢を示していた菅首相は自民党総裁選の立候補を見送っており、次期首相の方針によっては緊急事態宣言のさらなる延長や冬場にかけての再発出の可能性も十分想定されます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


宿泊・飲食産業の財務状況は深刻

そうした中で懸念されるのは宿泊・飲食産業の財務状況です。4~6月期の法人企業統計を見ると、宿泊・飲食サービス業の売上高はコロナ前の6割程度となっています。また、経常利益は2020年1~3月期から6四半期連続の赤字となっています。

このような厳しい状況の中で、内部留保と言われる宿泊・飲食サービス業の利益剰余金はコロナ前の2019年10~12月期の3.8兆円から0.6兆円まで減少しています。一部の小規模飲食店では時短協力金によって普段以上の金銭収入を得ている事例はあると思われるものの、業界全体ではそういった状況は見受けられません。

およそ3ヵ月で0.5兆円ずつ宿泊・飲食サービス業の内部留保が減っていることを考えると、冬場にかけて内部留保が枯渇し債務超過に陥る企業が続出する可能性が出てきています。

飲食業界200万人の雇用が失われかねない

同じく法人企業統計によると、宿泊・飲食サービス業の従業員数はコロナ前の2019年10~12月期の196万人から129万人へとすでに約3分の2に減少しています。これまでのところ、金融機関融資などによって事業者数の減少は抑制されていますが、内部留保が枯渇することによって倒産や廃業が今後増加する可能性が高まっており、さらなる雇用の減少が見込まれます。

9月8日に発表された景気ウォッチャー調査でも、「長期にわたる新型コロナウイルス感染症の影響で債務超過になっている店舗の元金返済が始まると、一気に倒産が増えてくると予測する(その他飲食[居酒屋])」とのコメントが掲載されています。雇用の受け皿が無くなることは社会不安の高まりにも直結します。

昨年度の補正予算ではGo Toトラベル・イート事業に多額の予算が充当されたものの、同事業に積極的だった菅政権が倒れたことで目先の再開は見通せなくなっています。日本フードサービス協会は最新の外食産業市場動向調査で、「営業努力にもかかわらず、明るい兆しはいつ見えるのか」と嘆いていますが、残念ながら厳しい状況が続くと見ざるを得ない状況です。

社会の方向性を決める覚悟が求められる

米国や欧州ではワクチン接種の進展を受けて経済再開の動きが進んでいます。しかし9月7日までの一週間平均で、米国の百万人当たりの日次新規感染者は472人、死亡者数は4.5人と、日本の116人、0.4人よりも大幅に高い水準です。

そうした中でも経済再開にかじを切っているのは、社会のありようを考える上で重要な示唆を与えるものだと筆者は考えます。日本もワクチン接種を条件に緊急事態宣言地域で飲食店の営業や酒類提供、県境をまたぐ移動を「認める」との行程表が議論されていると報じられています。

しかし、ワクチン接種が進んでも、海外対比でひっ迫が起こりやすい医療体制が改善されず過度に低い感染者数を政策決定の目標とする状況が続けば、早晩経済再開は行き詰まり再度の行動制限を迫られるでしょう。

日本の和食がユネスコの無形文化遺産に登録された際、当時の安倍首相は「日本人の大切な食文化を末永く後世に引き継ぎたい。海外の方々にも和食の良さを理解いただけるよう、さらに発信していきたい」との談話を発表しています。食のみならず日本の文化をどうしていくのか、今後の日本社会の方向性を決める覚悟が求められます。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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