コロナで大打撃 2020年度の三セク鉄道は40社すべてが赤字 ローカル鉄道の存在意義を考える【コラム】

全国最長163キロの路線を持つ岩手県の三陸鉄道は、2020年度に前年度より1億8000万円多い5億8500万円の経常赤字を計上しました(写真:denkei / PIXTA)

コロナの爆発的感染拡大が止まりません。鉄道事業者も苦戦を強いられ、各社軒並み、大きな赤字を計上しています。大手事業者は輸送需要の変化に合わせる形で、終電の繰上げや昼間時間帯の減便といった輸送力調整に乗り出しています。

鉄道業界を見渡せば、大手以上に深刻なのが地方の中小鉄道です。会員のほとんどが地方ローカル線という、第三セクター鉄道等協議会(三セク協)の2020年度輸送実績と経営成績がまとまったので、現状を確認しながら、地方ローカル線の存在意義といった点についても考えたいと思います。

ローカル鉄道34社と並行在来線6社

全国の三セク鉄道路線図。北海道から九州まで、各地にまんべんなく路線があります(資料:第三セクター鉄道等協議会)

三セク鉄道の業界団体が、三セク協です。本サイトでも何回か紹介させていただきましたが、最近は旅行会社とタイアップした、鉄道版の八十八ケ所巡り「鉄印帳の旅」で、話題をまいています。

三セク鉄道の大枠の定義は、公的資本が入った半官半民の鉄道。三セク協会員は全国の地方鉄道40社で、国鉄の特定地方交通線を引き継いだローカル鉄道が34社、整備新幹線の開業時にJRから経営分離された並行在来線を運営する鉄道が6社。40社の概略の路線図を転載しましたが、三陸鉄道、秋田内陸縦貫鉄道、天竜浜名湖鉄道、土佐くろしお鉄道、肥薩おれんじ鉄道と社名を挙げれば、鉄道ファンの皆さんにはイメージが湧くでしょう。

39社合わせても東京メトロの25分の1以下

会員39社を合計した、2020年度の年間輸送人員は6924万人(1000人単位で四捨五入)。2019年度は9507万人で、実数で2583万人、率で27.2%の大幅減に終わりました。会員数が40社なのに実績が1社少ないのは、京都府と兵庫県をまたぐ北近畿タンゴ鉄道の特殊事情。タンゴ鉄道は施設保有と列車運行を分ける経営の上下分離で、運行をWILLER TRAINS(京都丹後鉄道)に移管したため、輸送実績はありません。

6924万人の輸送実績とは、一体どの程度なのか。東京メトロの2020年度輸送人員は18億1900万人(定期と定期外の合計)。三セク39社を合わせても、メトロの25分の1以下に過ぎません。

観光列車やイベントで国内外の観光客を呼び込む

三セク鉄道の歴史をたどれば、国鉄時代末期、JRへの移行を前に「民間企業のJRは、採算の取れない地方ローカル線は経営できません。沿線自治体が設立した三セク鉄道が引き継ぐか、バス転換するかの判断は、地元の皆さんにお任せします」ということで、多くの三セク鉄道が誕生しました(もちろん国鉄やJRが勝手に決めたわけではなく、法律で規定されていました)。

ただ、地方圏の人口が減少に転じる中では、沿線住民の利用だけで鉄道の経営を成り立たせるのは難しく、三セク各社は魅力的な観光列車を運転。沿線の観光関係者や旅行会社とタイアップしたイベントの開催などで、都市や海外から観光客を誘致してきました。

「鉄印帳の旅」も、そうした流れの中に生まれたヒット商品です。しかしコロナは、三セク各社の営業努力を、いとも簡単に打ち砕きました。

若桜鉄道は輸送人員が増える

2020年度に三セク鉄道で唯一輸送人員が増えた若桜鉄道は、郡家―若桜間19.2キロの若桜線を運行します。若桜鉄道は施設を沿線自治体が持ち、事業者は列車運行に専念する経営の上下分離を実施しています(写真:そら / PIXTA)

会社別の輸送人員は、39社すべてがマイナスといいたいところですが、鳥取県の若桜鉄道だけプラスになりました(2019年度35万4000人、2020年度36万6000人)。

若桜鉄道の矢部雅彦総務部長にうかがったところ、理由は沿線の鳥取県立八頭高校への通学生の利用増。八頭高校はスポーツ教育に力を入れ、オリンピック選手も送り出しています。

鳥取県などは、八頭高校のスポーツ教育を地域づくりに生かそうと、鳥取市方面からから八頭高校に通学する生徒に通学定期代を補助。それで鉄道通学生が増えました。私には、地方鉄道の生き方を示すように思えます。

40社合計の決算は122億円の経常赤字

決算に移ります。タンゴ鉄道を加えた、会員40社全体の経常赤字額(鉄道事業に関連事業を加えた数字です)は122億2000万円で、2019年度の76億4200万円に比べ45億7700万円悪化しました。

前にも書きましたが黒字は1社もなく、全社が赤字。一応、データ的に挙げておくと、2019年度に黒字だったのは、愛知環状鉄道、信楽高原鐵道、智頭急行、若桜鉄道、甘木鉄道、しなの鉄道、IRいしかわ鉄道の7社でした。

新幹線や都市鉄道ばかりでなく、地方圏を走る三セク鉄道も、日本の鉄道を象徴するシーンの一つです。コロナが収束したらの話ですが、皆さんお近くの三セク鉄道に乗り鉄してはいかがでしょうか。

鉄道は「地域のシンボル」

さて、三セク鉄道の経営が非常に厳しいのは分かりましたが、そんな地方鉄道の存在意義はどこにあるのでしょうか。JR、大手私鉄、地方鉄道を紹介するとき、しばしば登場する慣用句が「地域のシンボル」です。

例えば、ある鉄道が廃止されてバス転換されると、どうなるでしょう。当たり前ですが、本サイトに登場しなくなる!? そうですね、鉄道がなくなると注目度が下がります。

赤字解消を目的に鉄道が廃止されてバスに置き換えられた地域では、沿線住民や来訪者から「確かに移動は可能だが、鉄道があった当時に比べ何となく寂れた感じがする」の言葉が聞かれたりします。

「シンボル=知的資産」わ鐵の報告書から

わ鐵の車両三態。客車タイプの「トロッコわたらせ渓谷号」をけん引するディーゼル機関車のDE10、気動車タイプのトロッコ列車「WKT-550形気動車」、現在は引退した初期形「わ89-100形気動車」=写真左から=(画像:わたらせ渓谷鐵道知的資産経営報告書)

地域のシンボルという漠然とした言い方を、「知的資産」の表現に置き換えたのが、群馬・栃木県を走る三セクのわたらせ渓谷鐵道(わ鐵)です。ルーツは国鉄足尾線で、足尾銅山の銅鉱を運んで日本の産業発展に貢献しましたが、1973年の閉山などで輸送量は減少。1989年に三セク転換されました。

わ鐵が2013年に公表したのが「知的資産経営報告書」。報告書は、「観光や産業振興につながる沿線の地域資源を、社内外を合わせた人材の力で、目に見える形に資産化することが、わ鐵のDNA(遺伝子)」と宣言しました。

地域との共存共栄の関係を築く手立てが鉄道

後段は「取材ノートから」の番外編として、わ鐵の報告書から地方鉄道の存在意義を考えてみましょう。

わ鐵は沿線住民の利用だけで経営を成り立たせるのは困難で、地域外から利用客を呼び込む活動に力を入れます。多くの地域鉄道と同じく、観光鉄道としての利用促進や再生を目指します。

代表例がトロッコ列車の運転、映画・テレビドラマ・CM撮影を誘致するロケツーリズム、特産品を素材としたオリジナル弁当の販売、歴史ある駅舎の登録有形文化財指定などで、わ鐵は旅行業免許を取得。受け地が旅行商品を企画する着地型旅行の考え方で観光客を誘致します。

四季を走るわ鐵。中央のゆるキャラは「わ鐵のわっしー」です(画像:わたらせ渓谷鐵道知的資産経営報告書)

メディア登場回数は年間700回

中でも力を入れ、成果も上がるのが新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、広報誌といったメディアへの露出。その結果、年間の登場回数は700回前後に達しました。メディア露出では、あるマスコミの調査で、わ鐵が「乗ってみたい鉄道」の1位に選ばれるといった成果も生まれました。

しかし世の中をみれば、わたらせ渓谷鐵道の名前を知らない人が圧倒的に多い。群馬、栃木県民でも、「社名は聞いたことがあるが、どこを走っているかは知らない人」がほとんど。沿線の魅力やトロッコ列車の楽しさを上手に発信すれば、観光旅行で乗車してくれる可能性は大いにあります。

鉄道は地域の絆(きずな)

わ鐵が愛称の「わ」に込めた4つの想い(画像・わたらせ渓谷鐵道知的資産経営報告書)

観光・地域振興と並ぶ役割が「地域連携」。鉄道は住民、学校、企業などをつなぐ「絆」の役目を受け持ちます。

推進母体が2006年に立ち上がった「わたらせ渓谷鐵道市民協議会」で、団体(企業)と個人合わせて200者以上が参加します。「鉄道を活用した地域づくりで、わ鐵の価値を再認識し存続につなげる」が目標で、ふるさと駅長やふるさとウォーキングイベント、支援コンサートなどを実施します。

わ鐵は観光列車「トロッコわっしー号」の運転のほか、最近も「わっしー号布マスク」の販売など、沿線外の人たちにも鉄道を応援してもらう活動に力を入れています。

文:上里夏生

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