日本は世界でも有数の自動車メーカーが豊富な国だ。乗用車メーカーとしては、トヨタをはじめ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、スバル、ダイハツ、スズキの8社がある。しかし所得に対して高額な自動車を気軽に購入できるユーザーが少なくなり、比較的安価な軽自動車やコンパクトカーを中心に販売台数が増えているのが、昨今の自動車販売の現状だ。そうした状況から国内の乗用車市場は停滞気味と言えるが、それでもトヨタの2021年4~6月期の連結販売台数(海外含む)は前年同期比85.4%増の214万8000台と好調。他社が苦戦している中、トヨタが一人勝ちできている理由は何なのだろうか。
全国に広がるディーラー網は全店全車種併売でも強い
まずは全国に広がっている「トヨタの販売網」だろう。全国に約6000店舗あると言われるトヨタディーラー。
2020年5月に全国全店で全車種を販売する前までは、高級車路線のトヨタ店、上級の大衆車がメインのトヨペット店、ファミリー層向けの車種がメインのカローラ店、若者向けの車種がメインのネッツ店とそれぞれ強みと販売車種が異なる4つのチャンネルを持っていた。
そのため、幹線道路沿いのディーラー激戦区のような場所では斜向かいにトヨタ店とカローラ店があるといった光景も珍しくなく、目につくところにトヨタディーラーがあるというような状況だった。これがトヨタが強いと言われる要因の一つだ。
前述の通り、全国全店で全車種を取り扱えるようになってから店舗数は減少しているが、自動車は他の商品と違い、メンテナンスなどで店に通う頻度が高く、平均使用年数も伸びている現在においては固定客を多く抱えている。そのため、大きなダメージは少ないのだろう。
車種ラインアップが豊富! SUVは人気車種8+1車種を用意
次に、これは上記の販売店数にも関係することだが、「豊富な車種ラインアップを持つ」ということも挙げられる。
前述の通り、販売チャネルの統合によって、車種整理が進められているが、それでもトヨタ車はコンパクトカーからSUV、ミニバンに至るまで、人気ボディタイプを多数用意。特に人気がとどまるところを知らないSUVでは、ライズ、ヤリスクロス、C-HR、ハリアー、RAV4、ランドクルーザー、ランドクルーザープラド、ハイラックス、そしてもうすぐ登場するカローラクロスなど幅広いラインアップを取り揃える。
利益率の低い軽自動車は扱わない
そして、利益率の低い「軽自動車をほとんど扱っていない」ということだ。
正確にいえば、ダイハツからOEM供給される軽自動車「ピクシス」はラインアップされているが、街中で見かけることはほとんどない。それもそのはず、トヨタが積極的に販売していないからだ。
軽自動車は登録車と比べると安価だが、それゆえに価格競争が激しく、なおかつ安全性や先進技術などの機能重視でメーカーとしての「うまみ」はほとんどない。
また、コスト重視で選ばれるため、ディーラーの利益となるメンテナンスや車検といったサービス面でも民間工場やユーザー車検などに流れていってしまう。乗り換え時にもコストを優先するため、同じディーラーで購入し続ける「固定客」にもなりにくい。
こうした負の連鎖を避け、登録車をメインで販売しているのもトヨタの強みだ。
多くの人に選ばれているからこそリセールバリューも高い
そして、最後に「多くの人が選んでいる」という安心感・信頼性が挙げられる。
これは販売店や選択できる車種の豊富さともつながってくることだが、街中で多くトヨタ車が走っているのを見かけると、選びたくなるのが日本人ならではの心理ではないだろうか。とがったデザインが少なく、どんな場面においても乗っていける安心感、「トヨタなら間違いない」と多くの人から信頼され、選ばれている。
逆に、人と同じクルマはイヤというユーザーに対しても、豊富なオプション装備やグレードが用意され、個性を出したいというニーズにも応えている。
ユーザーがクルマを選ぶ際、安全性と合わせて信頼性も重要となる。2020年度のJNCAP(自動車アセスメント)試験では、最高ランクの5つ星を取得したのがハリアー、ヤリスクロス、ヤリスと6車種中3車種をトヨタが占め、安全性の高さが裏打ちされている点もユーザーからすると安心感が得られるポイントだろう。
2020年に発表されたアメリカの自動車メーカー、ブランドの信頼性ランキングでも2位にトヨタ、3位にトヨタの高級ブランドであるレクサスがランクインするなど、海外からの信頼度も高い。
この多くの人から選ばれるという要素は、中古車になっても価値が落ちにくい=リセールバリューの高さにもつながってくる。
また、トヨタのラインアップの中にはGRスープラやGR86をはじめ、スポーツカーも含まれている。
安定的に売れる車種ラインアップで人気を高め、頑丈な収益基盤を築けているからこそ、こういったチャレンジングな車種にも手を広げ、スポーツカー好きからの支持も集めている。幅広いユーザーに応えるクルマづくり、販売体制がトヨタを一人勝ちさせる要因なのだろう。
【筆者:篠田 英里夏】