【大学野球】「世界が狭かった」来年ドラフト候補、日体大の“二刀流”が痛感した侍Jとの交流

日体大・矢澤宏太【写真:川村虎大】

矢澤は9回2安打無失点11奪三振で完封勝利、初回に自己最速の150キロも計測

最後の打者を三振に奪うと左手で拳を握り吠えた。バッティングパレス相石スタジアムひらつかのマウンドに立った日体大のエース・矢澤宏太投手には、考えを変えた経験があった。

11日に開幕した首都大学リーグ。3試合目の帝京大戦に「4番・投手」の“二刀流”で先発した矢澤は、初回1死二塁の場面で4番・光本への3球目に自己最速となる150キロを計測。常時140キロ中盤の直球と、切れ味抜群の変化球を武器に最後まで投げ切り2安打完封の好投。最終回は全て三振でアウトを奪い「三振はいつでも取れる」と自信を見せる。

春以降、取り組んできたことが成果につながった。「日体大の投手のスローガンは『小さくまとまるな』なので、直球の質を求めながら、コントロールを磨いてきました」。元々“荒れ球”が特徴だった矢澤だが、フォームを見直し、下半身を強化。その結果、「思ったところに投げられるようになってきました」と制球が安定してきた。敵将の唐澤良一監督も「きょうの矢澤くんはどこも打てませんよ」とお手上げ状態だった。

エースで4番、チームの柱として活躍する矢澤だが、その意識を大きく変える出来事があった。7月24日に開幕した東京五輪のボランティア活動だった。

侍Jメンバーの打撃を見て痛感「打てないんじゃなくて、打たないんだな」

日体大の野球部が行ったボランティアは健志台キャンパスのグラウンド(神奈川)や大田スタジアム(東京)での野球日本代表「侍ジャパン」の練習の補助。NPBの中でも一流の選手たちのプレーや振る舞いを間近で感じることができた。

「大学という世界でやってきたのが狭いというのがわかりました」

中でも差を感じたのが打撃だった。「柳田選手とか村上選手とか、大田スタジアムの左中間スタンドに何本も入れるし、甲斐選手も普段は右打ちとかが多いにも関わらず、練習では何本もスタンドに飛ばしていた。打てないのではなく、打たないんだなって感じました」。自身も二刀流として打撃でも4番を任される存在。レベルの高さを痛感した。

上を目指す以上、もっと練習が必要だと痛感した。ボランティアが終わってすぐに他の部活動の部員がコロナウイルスに感染し、練習に制限がかかることがあった。それでも、「大学に入って一番(バットを)振ってきた」と自負するほど猛練習に取り組んだ。

投手としては9回2安打11奪三振と圧倒したが、打者としては3打数1安打。その安打は、ボテボテの二塁ゴロを足でもぎ取った1本だった。結果には出なかったが、調子自体は悪く感じていない。「アウトのなり方も悪くなかったので、成果は出ているのかな」。春は守備につく機会は2度程だったが、この秋から、登板しない日は外野でスタメン出場し、本格的に二刀流に取り組む。ボランティアで感じたレベルの差を真摯に受け止め、さらに上の舞台を目指す。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

© 株式会社Creative2