韓国軍初の「軽空母」建造で知っておきたい3つのポイント

By Kosuke Takahashi

「自主国防」強化を掲げる韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が、最新鋭ステルス戦闘機F35Bを搭載できる軽空母の建造計画を着々と進めている。戦前から空母を建造し、運用していた日本と違い、韓国はこれまでに空母の開発経験や運用経験がない。技術的な課題など試行錯誤が予想される中、なぜこの機に及んで文政権は軽空母建造を推進しているのか。日本もいずも型護衛艦の軽空母化を進めているが、韓国の軽空母はどこが違うのか。

この拙稿では、隣国日本として韓国の軽空母建造計画で知っておきたい3つのポイントを取り上げたい。

① 経過

韓国の軽空母建造計画は、2019年8月の「2020-24年国防中期計画」で初めて公式化された。続いて2020年8月「2021-2025年国防中期計画」で概念設計と基本設計計画が反映された。韓国ではこの計画はCVX事業と呼ばれている。

2019年8月という時期に注目したい。それは日本政府が2018年12月にいずも型護衛艦へのF35B搭載を可能にする新たな「防衛計画の大綱」を閣議決定した8カ月後だった。

その後、韓国国防部は2021年2月、2022年から国産軽空母の基本設計に着手し、2033年までに実戦配備するという計画を発表した。そして、この事業のため、2兆300億ウォン(約1900億円)を投入することを明らかにした。

2021年6月に韓国釜山で開かれた「国際海洋防衛産業展(MADEX)2021」では、軽空母の受注を目指すライバル2社が最新モデルを公開した。韓国造船大手3社の大宇造船海洋、現代重工業、サムスン重工業のうち、初めの2社が受注競争を繰り広げている。

大宇造船海洋は全長263メートル、幅46.6メートル、満載排水量4万5000トン、最大速力27ノット(時速50キロ)の軽空母案を発表した。日本のいずも型護衛艦の全長248メートル、幅38メートル、満載排水量2万6000トンよりは大きくなる。

大宇造船海洋(DSME)が提案した韓国初となる軽空母のスケールモデル。艦橋が2つある一方、船首にはスキージャンプ甲板が設置されていない(金大榮氏提供)

また、大宇造船海洋は軽空母の飛行甲板にF35B戦闘機を最大16機、格納庫に12機をそれぞれ搭載できると説明した。さらに、英海軍史上最大の艦艇である空母「クイーン・エリザベス」のように艦橋は2つある一方、船首は米国の強襲揚陸艦「アメリカ」と同じように「スキージャンプ甲板」と呼ばれる上向きの傾斜甲板は設置されない。

大宇造船海洋は、イタリア海軍向け強襲揚陸艦「トリエステ」を建造中のイタリア造船大手フィンカンティエリと提携している。同社はイタリア海軍の軽空母「カヴール」も建造した。

一方、現代重工業の軽空母案は全長270メートル、幅60メートル、満載排水量4万5000トン。飛行甲板にF35Bを最大16機、格納庫には8機をそれぞれ搭載できると説明した。艦橋は2つあり、スキージャンプ甲板も設置された。これは「クイーン・エリザベス」の特徴でもある。現代重工業は、「クイーン・エリザベス」の開発建造に関わった英防衛大手バブコック・インターナショナルと提携しており、「クイーン・エリザベス」を参考にしたとみられる。

現代重工業(HHI)が提案した韓国初となる軽空母のスケールモデル。艦橋は2つあり、船首にスキージャンプ甲板が設置されている(金大榮氏提供)

艦橋が2つあるのは、1つは航海を、もう1つは航空管制を担当するためだ。しかし、1つの艦橋が敵の襲撃を受けても、別の艦橋で代わりにもう一方の作戦を継続できるように設置されている。

2021年8月には大宇造船海洋と韓進重工業が、軽空母の設計と建造のための相互協力覚書(MOU)を締結したと発表した。両社は軽空母事業の受注を目指すために設計、開発、建造で力を合わせる。

韓国国防省は8月末に発表した2022年の国防予算案の中に、軽空母導入に向けた研究費72億ウォン(約6億8000万円)を盛り込んでいる。

②課題

韓国が軽空母を建造するうえで大きな課題となるのが、F35Bがリフトファンで垂直着陸する時に発生する1000度以上の高熱に甲板が耐えられるほどの技術が確保できるかだ。

韓国の防衛事業庁は、艦載機の排気熱から甲板を保護するコーティング剤の開発や艦載機離着艦シミュレーション、艦載機衝突解析など9つの項目を軽空母建造に必要な核心技術に選定している。

なお、海上自衛隊のいずも型護衛艦1番艦「いずも」は2019年度末からF35B搭載に向けた1回目の改修工事が実施され、既に特殊な塗装などによる飛行甲板の耐熱処理工事や誘導灯の設置などが終了した。そして、2021年11月までには米海兵隊のF35Bが「いずも」で発着艦試験を実施する予定だ。

海上自衛隊史上最大の艦艇である護衛艦「いずも」(2018年2月、高橋浩祐撮影)

③目的

韓国国内では「軽空母が本当に必要なのか」という疑問の声もある。空母は基本的に広い海域の

制海権と制空権を手にするための戦力だ。しかし、韓国は日本や中国と違い、守るべき海域が狭い。韓国の排他的経済水域(EEZ)は日本の10分の1程度に過ぎない。韓国の周辺海域、特に西海(黄海)は狭く、軽空母を作戦運用するのは得策ではないとの指摘がある。

これに対し、韓国の防衛事業庁は「短距離離陸垂直着陸(STOVL)戦闘機を搭載して多様な安保の脅威に迅速に対応し、紛争が予想される海域での挑発を抑制するために韓国軍初の軽空母を確保する」と説明している。

では、「多様な安保の脅威」とは具体的に何を指しているのか。

韓国の軍事ジャーナリストの金大榮(キムデヨン)氏は筆者の取材に対し、「周辺国である日本と中国が空母を保有しており、韓国も必ず空母を保有しなければならない状況だ」と指摘。「韓国は大陸と接続された半島国家であるが、南北分断で大陸への接続が困難な状況にある。事実上、日本のような島国となっており、ほとんどの輸出入は海を介して行われている。特に東シナ海への韓国の依存度は非常に高い」と述べた。

「いずもの軽空母化という日本の後追いではないか」との筆者の問いには、金氏は「私の個人的考えだが、日本ではなく、中国の空母が韓国海軍の航空母艦計画に多くの影響を与えているとみられる」と述べた。

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