新型アルファード登場でヴェルファイアは廃止へ! 一体兄弟車の存在意義はなんだったのか!?

兄弟車という概念が薄れつつある。というのも2020年よりスタートしたトヨタの全店全車種取扱により、販売店ごとに設定される兄弟車が姿を消すのだった。その筆頭が新型アルファードの投入により、廃止される見込みのヴェルファイアだ。さらにはノアやヴォクシー、さらにはエスクァイアといった3兄弟も1台に集約される見込みである。そこで今回は兄弟車の存在意義と残した功績を振り返っていく。結論から言えば、兄弟車廃止は時代の流れ上仕方のないことなのだった。

トヨタ アルファード ハイブリッド エグゼクティブ ラウンジ[E-Four(4WD)/7人乗り]

トヨタの兄弟車が廃止! まもなく一台に集約される

トヨタが2020年5月から原則全店全車種扱いとなった。そのため、同社内の兄弟車はメッキリ減った。現在ある兄弟車はトヨタ アルファードに対するヴェルファイアと、トヨタ ノアを中心としたヴォクシーとエスクァイアだけである。

しかも、これらの兄弟車も近い将来1台にまとめられることが濃厚となっている。

ここでは90年代まで多数あった兄弟車の意義や、兄弟車の存在によるマルとバツを考えてみた。

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兄弟車の存在は多角化した販売チャネルにあり! 人気車種の兄弟モデル投入で販路拡大

各販売チャネルにヒット車をラインアップ! 代表例はマークII3兄弟だ

まず兄弟車が存在した理由で、大きくは2つの要因がある。

1つ目は、かつて日本車のディーラーはトヨタが5チャンネル(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、オート店→ネッツ店、ビスタ店→ネッツ店)、日産も5チャンネル(日産店、モーター店、プリンス店、サニー店、チェリー店)、ホンダは3チャンネル(クリオ、ベルノ、プリモ)といったディーラー系列があった。

各メーカーに複数チャネルがあった時代に、あるディーラー系列専売の人気車があれば「うちの店舗にも欲しい」となるのは当然で、その際に兄弟車は必要になった。

マークIIの爆発的ヒットを受けてトヨペット意外の販売店から熱烈ね希望があり、クレスタやチェイサーが加わったのだ

一番簡単な例がマークII三兄弟で、トヨペット店専売のマークIIが売れているのを別の会社となる他のトヨタのディーラー系列が見れば、「うちも欲しい」とチェイサー/オート店→ネッツ店、クレスタ/ビスタ店→ネッツ店(この2台はディーラー系列再編で消滅)が加わった。

各ディーラーチャネルで販売するラインアップ強化も目的のひとつ

2つ目も1つ目と似たところもあるが、複数チャネルがあればその維持のために新型車やタマと呼ばれる持ち駒はそれなりに必要で、そのために兄弟車が形成されていたという面もある。

その代表的な例が、80年代の日産サニー(サニー店)の兄弟車となる、リベルタビラ(日産店)、ローレルスピリット(モーター店)、ラングレー(プリンス店)、パルサー(チェリー店)の五兄弟である。

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選択肢の増加と値引き交渉に有利! 兄弟車のメリットはかなりあった

兄弟車といってもデザインなど仕上がりは別モノ! 選ぶ楽しみがあった

兄弟車といえどマークII3兄弟の客層はかなり異なっていた

次に兄弟車のメリットを考えていきたい。まず挙げられるのは、ユーザーの選択肢が増ることだ。

兄弟車のタイプにもよるが、マークII三兄弟であれば機能は同じでも内外装の雰囲気の違いだ。平成初めに存在した5ナンバーサイズのFR車三兄弟となる日産ローレル、セフィーロ、スカイラインであればそれぞれに明確な違いがあったのだ。要するにユーザーには選ぶ楽しみがあったというわけだ。

他の販売チャネルへの顧客流出を阻止するべく、値引きも有利に

日産も同様に高級サルーン「セドリック」と「グロリア」をラインアップしていた。エンブレムが異なるだけに、グレードラインアップもほとんど同じであった

そして兄弟車の存在により、購入する際に有利に働くというケースもある。

日産 セドリックとグロリアのようなエンブレム違いの兄弟車も、ユーザーからすると値引きなどの購入条件の交渉に使えた。

これは後述するネガティブ要因にもつながるのだが、売る側は他社に負けるより、同社内で負ける方が悔しいという思いがある。例えば、セドリックがクラウンに負けるより、グロリアに負ける方が悔しいなど、だ。

骨肉の争いと呼ばれる人間同様の身内による乱売により、ユーザーはクルマを安く買えることはあった。

また、ほぼ同じクルマや近いクルマを買えるディーラーが増えるというのも、ユーザーにはメリットだった。

兄弟車のデメリットも多数! 会社を揺るがす一大危機となる可能性も

存在意義が不明確なモデルも多数! スカイラインもその一例

一方で兄弟車のデメリットはなんであろうか!? まずは存在意義の分かりにくいモデルの存在だ。

その好例というより悪い例が直6エンジン時代の日産 スカラインである。

1970年代前半にケンメリと呼ばれたスカイラインの4代目モデルが大人気だったときの話。当然日産店も「ああいうクルマが欲しい」と、同時期のブルーバードには社内でスカイラインとライバルになる直6エンジン搭載車が加わったのだが、本家のスカイラインのようには成功しなかった。

7代目スカイライン

また、1980年代のマークII三兄弟をはじめとしたハイソカーと呼ばれるトヨタ車が人気だった時代の、スカイラインの7代目モデルはマークIIのようなクルマになった。

しかし、それ以前に日産にはマークIIの直接的なライバル車となるローレルがあり、「日産社内でスカイラインとローレルの違いがよく分からない」ということもあったのだ。

兄弟車乱発で大失敗をしたのがバブル期のマツダ。倒産の危機の要因でもあった

さらに兄弟車の乱発により、クルマの濃度が薄くなったこともあった。

例としてこれ以上のものがないのが、マツダ店、アンフィニ店、ユーノス店、オートザム店、フォードの輸入車も売るオートラマ店という5チャンネルがあったバブル期のマツダである。

このころのマツダは前述の「ディーラー系列にタマを回す」という目的のため、バッジ違いのファミリアアスティナ(マツダ店)とユーノス100のような兄弟車に加え、ミドルセダンのクロノスをベースとした「本当は何兄弟だったのか分からない」ほど多くの兄弟車があった。

クロノス兄弟は短期間で何台もリリースされたため、開発時間が足りず、問題を抱えたモデルは少なからずあった。売れたモデルもなくと、結局クロノス兄弟がマツダに残したものはほとんどなかった上に、マツダをピンチに追い込む大きな引き金となったのだった。

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安全基準をクリアすべく兄弟車といっても製造コストはかなりかかる

兄弟車といえども、アルファード/ヴェルファイアのフロントフェイスはかなり異なる。そのためそれぞれ安全基準をクリアすべく、自動車メーカーの負担はかなり大きなものとなっている

メーカーにとっては、兄弟車は車種の増加による管理などが増えるということも考えられる。

例えばアルファードとヴェルファイアのようにフロントマスクが違えば歩行者保護の確認が必要になるなど、法規が厳しくなかった時代はともかく、現代においては兄弟車があることによる負担は以前よりずっと大きい。

また、ディーラーとしても前述の骨肉の争いの争いによる消耗は小さくなかったのだった。

時代を考えれば兄弟車の廃止はやむなし!

兄弟車はバブル期のようにクルマがバンバン売れる時代なら必要なものだったが、現代のような販売台数になり、ディーラー系列もなくなれば、なくなるのも当然だ。

ただ、クルマ好き目線で兄弟車を見ると、「〇〇の兄弟車でマニアックな××ってあったねえ」、「あれは(メインとなる)△△ではなく、地味だった□□だ」と楽しませてくれたこともあっただけに、過去の思い出のように頭の片隅に留めておきたい。

【筆者:永田 恵一】

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