カルソニックGT-Rが未曾有のサバイバル戦を制して5年ぶりの美酒。首位独走ARTAは痛恨のペナルティ【第5戦GT500決勝レポート】

 2021年も後半戦突入の第5戦を迎えたスポーツランドSUGOでのスーパーGT第5戦『SUGO GT 300km RACE』は、静かなる前半戦から一転、レース後半に掛けて2年分の波乱やアクシデントの蓄積を吐き出したかのような“静と動”の展開を制し、12号車カルソニック IMPUL GT-Rの平峰一貴/松下信治組がGT500初優勝。平峰はTEAM IMPUL移籍後初、松下はデビューイヤーで勝利を飾るとともに、TEAM IMPULにとっても2016年以来5年ぶりのGT500勝利となった。

 変則シーズンとなった2020年を経て、2年ぶり開催となった東北ラウンドは、9月11日に初秋を感じさせる冷涼な気候のもと予選が争われ、GT500クラスでは8号車ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺)が唯一の1分09秒台に突入するタイムで、今季初のポールポジションを獲得した。

 フロントロウ2番手にもダンロップタイヤ装着の16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹)が並んでホンダ勢が最前列を占拠すると、4番手にもサクセスウエイト(SW)60kg搭載で燃料リストリクター1ランクダウンの措置を受けながらも、17号車Astemo NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット)がつけるなど、フロントエンジン化を果たしてなおNSX-GTとSUGOの好相性を感じさせる結果となった。

 一方、前戦の鈴鹿で表彰台独占の快挙を達成したニッサン陣営は、SW搭載量が16kgと軽い12号車カルソニック IMPUL GT-Rがホンダに割って入る3番グリッドを獲得。さらに開幕からここまで全戦入賞で、SWが56kgと燃リスダウンの措置を受ける3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正)も5番手に並び、今回から投入されたシーズン2基目のエンジン性能向上も感じさせるリザルトに。

 しかしその背後では、ランクダウン措置を受けないトヨタ陣営のGRスープラ、38号車ZENT CERUMO GR Supra(立川祐路/石浦宏明)、39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supra(ヘイキ・コバライネン/中山雄一)が4列目に並んだものの、オーバーテイクが難しいSUGOで後方からの巻き返しを強いられるやや厳しい条件となった。

 明けた12日は事前の天気予報どおり早朝から秋晴れの青空が広がり、強い日差しを受けて路面温度もグングンと上昇。ウォームアップ走行開始の午後12時10分時点で気温は手元計測で28度まで上昇し、週末を通じて最高温度のコンディションが、各マシンのセットアップ、選択したタイヤ条件にどう影響するかが焦点となった。

 13時30分にフォーメーションラップが開始されると、気温29度、路面温度は46度にまで上昇。隊列整理のため2周から3周へと延長されたラップを経て、減算83周の勝負に向けシグナルグリーンで15台の隊列が1コーナーへと突入していく。

 照り付ける日差しとホームストレートに吹く向かい風のなか、万全のウォームアップを完了した上位勢は、大きなトラブルもポジション変動もなくオープニングラップを走破していく。

 するとスタート直後に11番手へとひとつポジションを上げていた前戦勝者の23号車MOTUL AUTECH GT-Rが、予選後のエンジン交換申請によりシーズン3基目を投入したことによる5秒ストップペナルティ消化のため、6周目にはピットレーンへと戻っていく。

 同じ頃、首位のARTAと2番手Red Bull MOTUL MUGENは早くもGT300のバックマーカー処理に突入し、1分13秒台のファステストを記録しながら逃げる野尻智紀に対し、2番手Red Bullの大湯都史樹は背後のカルソニック IMPUL GT-R松下信治に迫られる。8周目のコントロールラインではサイド・バイ・サイドに持ち込まれるも、ここは大湯が必死のディフェンスで抵抗を見せる。

 続く10周目には、同じパターンで64号車Modulo NSX-GTに迫ったZENT CERUMO立川祐路が、さすがの技術で前に出て6番手へと浮上。15周目に再び仕掛けたカルソニック松下だったが、アウト側からターン1〜2を回ったものの行き場を失い失速し、代わって4番手Astemoのベルトラン・バゲットにポジションを明け渡してしまう。

 さらに翌周には5番手CRAFTSPORTS MOTUL GT-RにチャレンジしたZENT立川もターン3でコースオフ。これで一気に11番手までポジションを下げることに。

 20周を前に首位ARTA野尻は20秒以上のマージンを稼ぎ出し、2番手Red Bull MOTUL MUGEN大湯はペースが伸びず、後方のAstemo、カルソニック、CRAFTSPORTSに迫られる展開に。ここで20周目のセクター1で同門対決を仕掛けたバゲットの隙を突き、4番手カルソニック松下がターン3で奪われたポジションを奪還。

 さらに勢いに乗る松下は続く周回で2番手Red Bull MOTULにも襲いかかると、ハイポイントでインを奪って2番手進出に成功。このバトルの影響か、Red Bull MOTULは馬の背進入でAstemoにも先行され4番手に、そして23周目にはCRAFTSPORTS千代勝正にもパスされ、5番手へと後退。27周目には完全にタイヤのグリップが失われたか、最終コーナーでワイドになりあわやの場面にも見舞われてしまう。

 一方、ポイント圏内を争う10番手の勝負も熾烈な展開となり、14号車NEOS X PRIME GR Supraに対し、36号車au TOM’S GR Supraがホームストレートで“3ワイド”のバトルを繰り広げる。

 レースは29周目を過ぎ、ドライバー交代への最低義務周回数を終えると、ミニマムを狙う陣営が動きを見せ、1号車STANLEY NSX-GTや38号車ZENTが先陣を切ってピットイン。続く周にはRed Bull MOTUL、30周目にはAstemoもピットへと向かっていく。

 依然として路面温度は40度台をキープするなか、首位のARTAは32周目突入時点で38.8秒の静止時間で福住仁嶺にスイッチ。その2周後にトップを引き継いだカルソニックが同じく39.4秒で平峰一貴にステアリングを託すも、ピット作業での逆転はならず。アウトラップを経た翌周には、まだ完全なグリップ発動前のタイヤで3番手Astemoの塚越広大からアタックを受け、徹底したディフェンスラインでこれを封じていく。

 37周突入で最後までコースに留まっていた24号車リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rが作業を終え、ルーティンが完了すると36周目に平手晃平を送り出していたCRAFTSPORTSがわずか2周でピットへと戻り、そのままフロントからガレージイン。トラブルからかここでレースを終えてしまうことに。

 一方で、真っ先に作業を終えていた1号車STANLEYのディフェンディングチャンピオン、山本尚貴が38周目にはKeePer TOM’S GR Supraをコース上で仕留めるなど流石のドライブでアンダーカットを成功させ、トップ10圏外から4番手まで躍進。前戦を彷彿とさせる戦略を見せる。

 すると45周を前に首位8号車ARTAにまさかの事態が発生。ピット作業違反の検証が表示されると、左フロントタイヤの交換時に外したタイヤを平置きとすべきところを遵守できず、ドライブスルーペナルティが課されることに。

 さらにその直後、これが“SUGOの魔物”かレースが大きく動き、47周目の最終コーナー上りで19号車WedsSport ADVAN GR Supraがエンジンから炎を上げてイン側にストップ。レースコントロールはフルコースイエロー(FCY)ではなく、すぐさまセーフティカー(SC)導入を宣言する。

 このSCピリオドでピットレーンがクローズされたことで、8号車ARTAはペナルティ消化の猶予期間内だったことからまだドライブスルーを終えておらず、51周目にホームストレート上でクラス別に隊列を整えたのち、ピットエントリーがオープンとなった先導走行中の54周目にARTA福住がピットレーンへ向かう。

 しかし、この消化がルール上のペナルティ消化とはならなかったからか、続くレースリスタート後の55周目、さらに続く56周目にもピットレーンを走行した8号車は、レース終盤にもこの際の『ピットレーン出口信号無視』により10秒ストップを課されるなど、勝利に向けレースを支配した前半戦から一転、クラス最後尾まで転落する失意の展開となってしまう。

 さらにここからも負の連鎖は続き、ZENT石浦宏明は58周目にピットへと向かいここでマシンはガレージへ。さらに63周目にはポイント圏内を走っていたENEOS X PRIME GR Supraがターン1手前でストップ。これでGR Supraは3台が姿を消すことに。

 この車両回収で64周目にFCYが出されると、翌ラップの解除を狙って3番手のSTANLEY山本がAstemoをパスし、2番手浮上に成功。67周目には5番手争いを制した39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraの中山雄一が36号車au TOM’S GR Supraの前に出る。

 この間、首位を守り続けたカルソニック平峰は、70周を終えて後続に約5秒の差をつけると、GT300の集団バトルに遭遇しながらもギャップを拡大する力走を披露。一方で4番手争いを繰り広げたトヨタ陣営は75周目のターン1でインに飛び込んだDENSO中山に対し、ターンインを開始したKeePer平川亮が接触。これでスロー走行となった37号車はそのままガレージインし、貴重な4位8ポイントを失ってしまう。

 そのまま波乱満載の83周を走り切った平峰の12号車GT-Rがトップチェッカーを受け、自身にとってもGT500昇格後の初優勝、ルーキー松下にとってもデビューイヤーでの勝利となり、TEAM IMPULは2016年以来5年ぶりのGT500勝利に。

 2位には予選10番手から一時はトップ10圏外に落ちながらも、最後の最後までポジションアップを果たしたSTANLEY NSX-GTが続き、Astemo NSX-GTと表彰台を分け合う結果に。4位には終盤にチームメイトとの同門対決の間を縫ってポジションを上げてきた36号車au TOM’S GR Supraが、DENSO KOBELCO SARDを抑え込んでフィニッシュ。

 6位リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rの背後には、80周を過ぎての攻防でModulo NSX-GTを攻略したMOTUL AUTECH GT-Rが続いた。

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