柔道男子100kg級・金ウルフアロンがいま明かす過酷な減量「代表で一番際どいやり方」「寿命も削っている」

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優勝が決まりガッツポーズのウルフアロン(C)共同通信社

【メダリストが明かす東京五輪舞台裏】#13

ウルフアロン(1)
(25歳、柔道男子100キロ級・金メダル、団体混合・銀メダル/了徳寺大職)

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韓国のチョ・グハムを大内刈りで破ると、突き上げた両拳を震わせながらガッツポーズした。大きな瞳から涙がこぼれた。7月29日。男子100キロ級で延長5分35秒の激闘の末、五輪初の金メダルを掴んだ。

「勝ったことで、これまでやってきたことが正しかったのだと初めて思うことができました。そんな気持ちがすべて込み上げてきたのがあの涙だったのかなと。コロナ禍で五輪が1年延期となり、膝に大きなケガがある中で、自分にできる準備をしっかりしてきたという自信はあった。でも、試合で勝たなければ、やってきたことが正しかったのかどうかは分からない。『負けたけど頑張ったからいい』という人もいますが、僕は絶対そうは思いたくなかった。勝負師として第一線で戦っているからこそ、勝たないといけないという思いがありました」

頂点に上り詰めるまで、困難にぶつかってきた。

2017年9月の世界柔道選手権100キロ級を制し、世界にその名を轟かせたのも束の間、同年暮れの稽古中に左膝半月板を損傷。年明けに手術を受け、半年間をリハビリに費やした。さらに、19年12月にはマスターズ大会で右膝の半月板も損傷。またも手術を余儀なくされたが、傷ついた半月板の縫合ではなく、骨片の除去にとどめた。翌年の東京五輪を見越しての判断だった。

■「1年延期で気持ちが沈んだ」

しかし翌20年3月、コロナ禍により東京五輪の1年延期が決定。それからの2カ月間は、気持ちが沈んだという。

「あの時、膝を縫合手術にしておけば……という気持ちにもなりました。コロナ禍による自粛で練習できなかったのもつらかったです。21年に五輪を迎えられたとしても、大丈夫なのかなと不安でした。ケガもあってトレーニングができず、体重は増えましたし、いざ練習を再開しても調子が上がってこない。手術してから一度も試合をしていないので、自分がどの立ち位置にいるかも分からない。ただ、もし20年に五輪が行われていたら膝の状態は万全には持っていけなかった。準備できる期間が1年増えたことで、自分にできることがあると信じて、前向きに捉えることにしました」

練習先である母校・東海大柔道部は20年4月1日から約5カ月半、道場を閉鎖していた。ウルフが頼ったのは、日本代表の鈴木桂治コーチ。国士舘大の総監督を務める同コーチの尽力もあり、PCR検査の陰性証明の提示を条件に受け入れを認めてくれた。

「国士舘大には本当に感謝しています。過去に3冠(日本選手権、世界選手権、五輪)を成し遂げた鈴木コーチはさまざまな経験を積んでいる方で、アドバイスが的確。不安なことがあったら何でも聞けるし、一緒に戦ってくれて心強かったです」

迎えた試合前日、ウルフは大舞台に臨むための最後の難関を乗り越えようとしていた。計量だ。

夜8時の計量時間までに残り3キロを一気に落とす

最も過酷なのが減量だ。本人は「たぶん、日本代表の中で一番際どいやり方で、内臓にも負担があると思います」と言う。

さまざまな減量法を試した。減量を回避するために常時99キロをキープしたり、2週間で一気に10キロを落としたりした。試行錯誤の末、自身にとって最適解を見つけ出した。

「2カ月くらいかけて110キロ超の体重を徐々に105キロくらいまで減らし、最後の1週間で5キロ落とすんです」

総仕上げは計量当日。朝を103キロで迎え、夜8時の計量時間までに残り3キロを一気に落とす。

「計量後に体重を(制限限度の)105キロに戻したときの感覚が良く、体を動かしやすいんです。最終日はちょっとキツイですけどね(笑い)。当日はまず、サウナスーツを着て柔道の練習。1キロほど落としたら、残りはサウナです。汗がバーッと出たら、それを全部拭く。また汗が出たら外に出て体を拭いてから体重計に乗る。これが1セット。1セットでだいたい200~300グラム減ります。今回は計6セットで時間にすると1時間半くらい。途中で水は飲みませんから、水分が出尽くして尿すら出なくなります(笑い)」

極端な減量だけに体への負担は大きいはずだ。

「寿命も削っているでしょうね、たぶん。もともと緊張するタイプで、五輪前は毎日、試合のことを考えて心臓がバクバクして胃もキュッとする感じが続きました。その分、試合当日は思ったよりは緊張せず、それが良い動きができた要因なのかなと。格闘漫画『刃牙』シリーズに、ドーピング漬けで常識外れの鍛錬をするジャック・ハンマーというキャラがいて、『今日強くなれるならば明日はいらない』というセリフがあるんです。やっぱり目先の勝利ですよ。もちろん、ドーピングはやりませんけど(笑い)。目の前にある勝ちを積み重ねていかないと、さらなる大きな勝利にはつながらない。五輪で優勝したいと思っても、必ずしも五輪に出られるわけではない。出場するにはそれまでに一つ一つの試合、大会を積み重ねていかないと。ジャックのように明日死んでもいいとは思わないですけどね(笑い)」

迎えた五輪本番、決勝は因縁の相手だった。(つづく)