最年少3冠

 双方が持ち時間を使い切って1手60秒以内で指す大詰めの終盤戦。盤のすみっこで遊んでいるように見えて実は跳躍の瞬間を探っていたのか、そこまで争点だったエリアとは離れた自陣の「桂馬」に挑戦者の指がすっと伸びた。まだまだ難解と見られた局面が一度にほぐれた▲「1分将棋であんな手が見えるんだ」は解説していた深浦康市九段=佐世保市出身=の評。もう一人の解説者も「最短の極みですね。いちばん美しい寄せです」。指し手が即詰みの手順に進み、きれいな投了図をつくった相手が「負けました」と頭を下げた▲将棋叡王戦の5番勝負を昨日制し、史上最年少の19歳1カ月で三冠獲得を果たした藤井聡太王位・棋聖。羽生善治さんの記録を3歳と少し塗り替えた▲タイトル保持者になって1年が過ぎたが“安全勝ち”を選択しない積極的な棋風が変わらないことに驚く。背負うものが増え、対局に懸かるものは重くなったはずなのに▲謙虚な姿勢もそのまま。この日は「内容的に課題を感じることも多かった」「結果を意識せずに前を向いていけたら」と語った。勝っている人ほど忙しい将棋界で誰よりも暑い夏を過ごし、4月以降の対局数と勝ち星はもちろん全棋士のトップを快走中▲この秋でデビューから5年。快進撃が止まる気配がない。(智)

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