「個」の育成の申し子 大久保嘉人(39)=セレッソ大阪FW= 「誰にでも絶対長所はある」

選手権と小嶺先生・1

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インターハイ、国体、選手権の高校3冠で一躍その名をとどろかせた大久保。国見で類いまれな得点感覚を培った=2001年1月、東京・国立競技場

 100キロを越える巨漢で熱血指導を振るい、ついたあだ名は「ダンプ」。徹底した走り込みと人間教育、そして個々の特長を見抜く指導法で結果を出してきた小嶺。中でも「最高傑作」と呼び声高いのが国見高3年時にインターハイ、国体、選手権の主要3冠を獲得した大久保嘉人(39)=セレッソ大阪FW=だ。
 J1史上最多の通算191ゴール、J史上初の3年連続得点王、ワールドカップ2大会出場…。数々の輝かしい実績を残し、今なお闘志あふれるプレーで活躍を続けるベテランは、20年以上にわたってプロで活躍できている第一の理由に高校時代を挙げる。
 「体力もそうだけど、一番は精神力を鍛えられた。今でもやれている理由は、そこがむちゃくちゃ大きい」
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 高校サッカー随一の練習量を誇る強豪校は、日常的に課す長距離走が名物だった。往復12キロのロードワークは「狸山」と呼ばれ、100~500メートルのダッシュを10本程度繰り返す通称「マグロ」は、グループ内の全員が設定タイムでゴールしなければいけない。泥くさい練習を乗り越えて、戦う心が養われた。
 「試合の踏ん張りどころとか、ゴールが必要な時とか。ちょっとでも妥協したら危ない場面は国見のころの走りを今でも思い出す」
 もっとも走り込みはチームの土台にすぎない。勝てるチームをつくるもう一つの大きな要素が「個」の育成だ。
 「先生がいつもみんなに言っていたのが、とにかく長所を伸ばせと。自分の長所が何なのか分からないかもしれないけど、誰にでも絶対長所はあるからって」
 小嶺は選手一人一人の長所を見つけるのがうまい。大久保にとってのそれはドリブルであり、シュートだった。部活後にコーンを並べてドリブルからミドルシュートの練習を1時間弱。こうして日本を代表するストライカーが誕生した。
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 選手の性格やその時々の空気感で、アメとムチを使い分けるのも小嶺ならではだ。
 ある試合で、熱くなりすぎた大久保が一発退場を食らったことがあった。当時から負けん気が強かった少年もこの時ばかりは「ヤバい。ボコられる」とおびえたが、それを見た小嶺は「嘉人、おまえは退場したから弁当2個食え」とジョークを一発。これで縮こまるよりも、思い切りのいいプレーを続ける方が教え子のためになると分かっていたのだろう。
 逆に、物事がうまくいっている時ほど小嶺は厳しかった。
 インターハイで優勝して、小嶺を胴上げしようとみんなで駆け寄った際は「このくらいで喜んでどうする」とこっぴどく叱られた。国体を制しても、選手権で得点王と8年ぶりの優勝旗を手にしても同じ。「勝ってかぶとの緒を締めよ」。そう言って、淡々とした表情でバスに乗り込むのがお決まりだった。
 おまえたちにはまだまだ可能性がある。満足せずに、もっと大きく成長しろ-。後々の人生まで考えた愛のむちだったのだと今は思える。
(敬称略)

 【略歴】おおくぼ・よしと 国見高3年でインターハイ、国体、全国選手権の3冠を達成し、プロへ。欧州移籍を経て2013~15年に川崎で史上初の3年連続得点王となり、今季は15年ぶりにC大阪に復帰した。J1通算191ゴール。元日本代表。福岡県出身。