『007』シリーズのプロデューサー、バーバラ・ブロッコリ。1962年のシリーズ1作目『007/ドクター・ノオ』以来、ボンド映画の製作をしてきたイオン・プロダクションを、父アルバート・R・ブロッコリから引き継ぎ、『007/ゴールデン・アイ』(1995年)からプロデューサーを務めている。
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「フクナガ監督もダニエルも完璧主義者」
―『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はダニエル・クレイグのボンド映画5作を総括するものになっているのでしょうか?
ダニエルが出演した5作、全部のつじつまを合わせようとして、パズルをしたわけではありませんよ(笑)。でもダニエルはこの5作の間、ずっとボンドのキャラクターがより立体的になるように取り組んでくれていました。ボンドの内面、感情の大きなうねりを表現してきたし、毎回、肉体だけでなく、精神的にも非常な困難にさらされてきました。私たちもボンドが乗り越えるべき問題をどんどん難しく、タフにしていったけれど、今回はその究極のものと言えるでしょうね。
―今作の監督をする予定だったダニー・ボイルが降板し、キャリー・ジョージ・フクナガが監督となった経緯を教えてください。
ダニーはとても才能のある監督で、ずっと真剣に取り組んでくれていました。彼のことは尊敬しているし、一緒に仕事をしたかったけれども、最終的には大人の決断を下すことになった。前に進むためには新しい監督をすぐに見つけないといけなかったけれど、幸運にもキャリーの手が空いていたんです。
キャリーとは数年前に一度、話をしていて、『007』にとても興味を示してくれていたので、監督をお願いしたというわけです。キャリーは優れた脚本家でもあるから、脚本家チームと一緒にストーリーから練り直してくれた。彼は完璧主義者なんです。ダニエルもそうだし、うちのチームは完璧主義者が多いですね。おかげで気が合ったんじゃないでしょうか(笑)。
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「ダニエル以外のボンドなんて、まだ考えられない」
―今作は“#MeToo”の時代にふさわしい、フェミニスト・ボンドになっているのでしょうか?
そう言えますね。ジェームズ・ボンドには対処しなければならない、人生の問題が常に存在していて、それがジェームズという人物の一部になっている。孤児として育ったこととか、少年時代に辛い思いをしたとか、いろいろな影がボンドにはあるんです。そして仕事の上でも、次に何が起きるのか、まったくわからない日々を送り、サバイブしないとならない。ボンドは『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)でのヴェスパーの死によって大きく傷ついたけれど、マドレーヌ・スワンとの出会いによって救われたんです。
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『007/スペクター』(2015年)の最後では、ボンドはマドレーヌと幸せになるのかと思われた。そこから今回の話は始まるんですが、もちろん二人の関係は非常に厳しい側面にあるということがわかる。特にボンドにとってはね。二人の関係は非常に興味深いもので、とても特別な結末を迎えることになります。あとは映画をご覧になってください。
―『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』という題名は、どのように決まったのですか?
題名を付けるのは毎回とても難しくて、悩みに悩みまくって、ようやく「これだ!」って、思いついたんです。実はこれは、私の父(アルバート・R・ブロッコリ)が1950年代に作った映画のイギリスでの原題でした。この『NO TIME TO DIE』という題名を父は気に入っていて、すごく使いたいと思っていたのだけれど、アメリカでの劇場公開時には『TANK FORCE!』(※)という題名に変わってしまった。それを思い出したというわけ。(※:邦題『今は死ぬ時ではない』[1958年]/監督:テレンス・ヤング)
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―ダニエル・クレイグのボンドとはこれでお別れですね。
私はまだ、ダニエルが辞めるのを認めたわけではないんです(笑)。ダニエル以外のボンドなんて、まだ考えられない。15年も一緒にやってたんですから。
取材・文:石津文子
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より全国公開