日経平均株価3万円は通過点、米金融正常化が日本株のさらなる追い風になると読むワケ

昨年9月から11ヵ月連続で月末(月の最終営業日)の株安を記録していた日本株は、今年8月に1年ぶりに月末株高を記録しました。前日まで27,000円台で推移していた日経平均株価はおよそ3週間ぶりに28,000円台を回復。その後、28,000円台にはわずか3日間滞在しただけで、週末の9月3日には29,000円台に到達しました。

そして、翌週の9月7日には、4月上旬以来となる30,000円を一時回復し、およそ5ヵ月にわたった調整を、わずか1週間余りで埋めるほどの急展開を見せました。さらに14日には終値3万670円と、31年ぶりに高値を更新しました。

1年ぶりの月末株高がこのような展開を暗示していたかのようにも見えますが、直接的な原動力は、菅政権の退陣に伴う、新しい首相の下での新たな政治への国内外の期待と捉えることができます。


新たな政治への期待と新型コロナの感染沈静化

確かに、菅首相の自民党総裁選への不出馬は想定外でした。これまで菅政権の続投を前提に、衆院選とその後の政局を占うというのが、株式市場での標準シナリオであったわけですが、その前提が、ある意味で良い方向に崩れたといえるかもしれません。

そうした偶発的な出来事が日本株の急反発を引き起こしましたが、もともと日本株には相場の反発を正当化する材料がいくつか備わっていたことも事実です。その一つが新型コロナの感染一服と、その後の経済再開です。

日本は未だ大都市圏を中心に緊急事態宣言下にある状況ながら、デルタ株の猛威による感染の広がりは沈静化に向かいつつあるようにみえます。加えて、新型コロナのワクチン接種は着実に進み、2回の接種が完了した人の割合は、人口比で5割を超えました。

だからといって、感染が再び拡大しないとも言い切れず、油断は禁物ですが、経済は次のステージを見据えられるところまでやって来ているように思えます。政府は10月以降に行動制限を段階的に緩和していく方針を示しており、年末・年始に向けて、日本の景気は本格的な回復軌道へと向かう可能性があります。

経済再開で上向く企業業績見通し

ミクロの企業業績の見通しに目を向けると、そうした景気の先行きを反映してか、足元の市場では業績の上方修正の動きが顕著となっています。アナリストの業績予想で、上方修正された企業の割合から下方修正された企業の割合を引いて求められる「リビジョン・インデックス」は、日本が欧米市場の回復に後れを取っていましたが、ここにきて急速にキャッチアップする様子を見せています。

向こう12ヵ月間に予想される1株あたりの利益見通しでも、4週前と比較した伸び率は日本企業が欧米企業を上回っています。このことから、足元の業績見通し回復のモメンタムは、相対的に日本企業に勢いがあると判断されます。

米国の金融正常化はむしろ日本株の追い風に?

もう一つは、米国での金融緩和策のテーパリング(資産買取規模の縮小)の開始です。米国では高まるインフレ圧力と雇用の回復により、年内にこれまでの未曾有の金融緩和策に修正が施される見通しです。

国債などの資産買取の金額を徐々に減額させていく方法が既定路線になっており、11月のFOMCでの決定と、12月からの減額開始が市場ではコンセンサスとなりつつあります。それに伴って、米国の市場金利も上昇することが予想されますが、それは日本株にとって逆風というよりも追い風になりそうです。

一般に米金利の上昇は、米景気拡大の裏返しとして受け止められます。また、景気回復局面での物色は、ハイテク・グロース株より、景気敏感・バリュー株に傾くことが多く、後者の比重の高い日本株には有利に働くと考えられています。

テーパリングを抜きにしても、もともと11~12月は景気敏感・バリュー株がアウトパフォームしやすい季節性があり、いずれにしても、年末に向けての日本株には良好な相場環境が整いそうです。

日本株の戻りは半ば必然、株価はさらなる高みへ

大和証券では、年内の日経平均株価の想定を高値33,000円、年末31,000円に置いています。ほんの2~3週間前までなら、その実現可能性を危ぶむ見方もあったかもしれませんが、ここにきて、そのシナリオはにわかに現実味を帯びてきた印象です。

以前から、日経平均株価の30,000円は一つの通過点に過ぎないと見てきた立場からすれば、足元の株価の戻りは半ば必然的なもののように思えます。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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