西武が目の前に抱える課題解消へ光… “地獄を見た男”岸潤一郎が示す可能性

西武・岸潤一郎【写真:宮脇広久】

2安打2打点、守ってもレーザービーム…一方で牽制死の失態も

■西武 3ー1 日本ハム(14日・メットライフ)

地獄を見た男が、2年越しで“ポスト秋山”の地位を固めようとしている。西武の岸潤一郎外野手は14日、本拠地・メットライフドームで行われた日本ハム戦に「2番・中堅」で出場し、2回に先制2点適時打を放つなど3打数2安打2打点。チームは3-1で競り勝ち、3連勝を飾った。

2回2死満塁で第2打席を迎えた岸は、日本ハムの先発・池田の145キロ速球を一閃。中前へ弾き返し、2者を迎え入れた。「同級生の(高橋)光成が投げていたので、絶対に先制点を取ろうという気持ちで打席に立ちました」。確かに、お立ち台で並んだ岸と高橋光は、同学年でともに24歳。しかし岸は、群馬・前橋育英高からドラフト1位で入団した高橋とは対照的な経緯を経て、ここまで漕ぎつけた。

高知・明徳義塾高時代は、投手として4度甲子園に出場。打っても高校通算24本塁打を放ったスターだった。ところが拓大進学後、肩や肘を相次いで痛め、3年時に退学して1度は野球を断念した。そこから独立リーグの四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスに誘われ、俊足が売りの野手に変身。2年間在籍し、2019年ドラフト8位で西武入り。ただ、支配下では12球団でしんがりの74人目の指名だった。

金子の打撃不振で台頭…20試合連続で中堅のスタメン担う

1年目の昨季は、わずか5試合の1軍出場に終わったが、今季は格段に存在感を増している。盗塁王2度の実績を誇る9年目の金子侑司外野手が打撃不振で8月20日に出場選手登録を抹消されると、同日から岸が20試合連続で中堅でスタメン。打順は9、7、8、1番を経て、8月28日以降2番に定着している。打率は.244ともう一息だが、7本塁打と一発の魅力も秘めている。西武では、長く中堅のレギュラーを務めていた秋山翔吾外野手(現レッズ)が一昨年限りでメジャーへ移籍し、昨季は後釜を固定できなかった。ここにきて岸が限りなくそのポジションに近づいている。

この日は守備でも魅せた。2点リードで迎えた3回、西川に適時二塁打を浴びて1点差とされ、なおも無死二塁のピンチ。ここで野村がやや浅い中飛を打ち上げ、タッチアップから三塁を狙った西川を、岸は強肩を生かしたノーバウンド送球で刺したのだ。送球はやや右へ逸れたが、三塁手のスパンジェンバーグがダイビングしながらタッチ。当初の判定は「セーフ」も、リクエストを経て「アウト」に覆った。辻発彦監督は「1点差になって嫌な感じだったが、岸がうまく殺してくれた」と称えたが、岸本人は「でも、あれは、スパンジェンバーグがタッチしてくれたので……ありがとうございます」と謙虚に頭を下げた。

明らかなミスもあった。3-1と2点リードして迎えた7回先頭で、日本ハム4番手・宮西から左翼線二塁打を放ったが、続く森の打席で、宮西から牽制で刺された。チームにとっては喉から手が出るほど追加点が欲しい場面。お立ち台で開口一番「ミスをたくさんしてしまったのですが、勝ててよかったです」と話した。

レギュラー争いには「必死に食らいついていこうと思います」と強く言い切った岸。まだまだ毀誉褒貶が相半ばするが、スケールの大きな魅力とストーリー性を持つニュースター候補だ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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