「Go To トラベル」の戒め

 「次の人」は誰? 焦点はそちらに移っていて、気の毒だが「今の人」は話題に上らない。菅義偉首相が自民党の新総裁に選ばれてから、きのうで1年たった▲「令和おじさん」「たたき上げ」と親しみやすさを押し出しながら、総裁選の後、会見で胸を張っていた。私が選ばれた大きな理由は、観光を支える「Go To トラベル」で成果を挙げたことだ、と▲官房長官の頃から菅氏が旗を振ってきたトラベル事業は、昨年7月に始まった。旅行、観光業はいっとき息を吹き返したが、コロナ感染が広がっても政府はそれを「継続する」と言い続ける▲やがて感染が急拡大する一部の地域で「一時停止」、昨年12月になって「全国で一時停止」に追い込まれた。なぜ何カ月もブレーキを踏めずにいたか。経済を回すためだが、もう一つ、「トラベルが感染拡大の原因だという証拠はない」と言い張ったのが大きい▲感染との因果関係は不明だから、トラベル事業を引っ込める理由はない…。強弁するうちに身動きが取れなくなった例だろう▲政府は今年11月ごろをめどに、県境をまたぐ旅行や大きなイベントについて行動制限を緩めることにした。緩めた揚げ句、引くに引けなくなる局面を繰り返すことがないように。今も止まったままのトラベル事業は戒めている。(徹)


© 株式会社長崎新聞社