非保有国が主導する核廃絶の「具体的手段」とは? 岡田克也・元副総理に聞く

 核兵器禁止条約が今年1月に発効して核軍縮に向けた機運が高まる中、被爆地・長崎を中心に長年提唱されてきた「北東アジア非核兵器地帯構想」が再注目されている。2008年に民主党の「核軍縮促進議員連盟」会長としてこの構想の条約案を発表し、翌年の政権交代後には外相として各国との核軍縮・不拡散交渉に取り組んだ岡田克也元副総理に、改めて構想の意義や課題を聞いた。(共同通信=井上浩志)

インタビューに答える岡田克也・元副総理

 【非核兵器地帯】核兵器の実験や配備、使用などを条約で禁止する地域。中南米(トラテロルコ条約)を含む5地域があり、モンゴルは単独で宣言した。米ロ英仏中の核保有五大国は、加盟国に核攻撃や威嚇をしないよう求めるトラテロルコ条約の付属議定書を批准。北東アジアでの構想は、日本、韓国、北朝鮮の核開発を禁じ、米中ロが核攻撃をしないことを約束する「3プラス3」案が基調。長崎市長は長年、長崎原爆の日の平和宣言で実現を訴え、国内21の非政府組織(NGO)などは今年2月、検討を求める要望書を政府に提出した。

世界の非核兵器地帯 南極条約は核実験を含む軍事利用を禁じており、南極は事実上の非核兵器地帯と位置付けられている。

 ▽非保有国が当事者

 ―北東アジア非核兵器地帯構想を実現する最大の意義は。

 非核化を実現する方法としては、核の数と役割を低減していくアプローチがある。だがこれは核兵器保有国が交渉の当事者で、非保有国はなかなか当事者になりにくい。一方で非核兵器地帯条約は、核を持たない国が一義的な当事者だ。このため、非保有国が非核化を実現していく具体的手段と言える。

 既に世界の各地域に非核地帯条約がある。北東アジアでも実現すれば、核保有国に対する大きなプレッシャーになる。

 ―構想が実現すると、日本は米国の「核の傘」から出ることになり、日本にとって安全保障上のリスクが生じるのでは。

 08年の条約案発表に先立つわれわれの議論の中で一番焦点になったのは、条約が破られて北東アジアで核兵器が使われた場合にどうなるのか、ということだった。結論は、「条約法に関するウィーン条約」に基づき非核地帯条約自体が無効になり、核による報復があり得るというものだ。つまり、非核地帯条約によって核の傘が完全になくなるわけではなく、いったん停止しているということだ。

 ―北朝鮮にはどのようなメリットがあるのか。

 北朝鮮には、「一方的に核を放棄して米国から核攻撃を受けるのではないか」という心配がある。そうならないことを担保する意味がある。

 ▽最大の障害は北朝鮮

 ―一部には、構想が実現した場合、北東アジアにおける米国の影響力が低下しロシアや中国を利するとの指摘もある。米国はこの構想を受け入れるか。

 核兵器が使われた場合の報復としての核使用はあり得るので、米国の影響力の低下につながるという議論は理解できない。

 この構想は、一種の核の先制不使用条約と言える。バイデン大統領は就任前、核保有の目的を核攻撃の抑止と報復に限るべきだとの考えを示しており、これは核の先制不使用と同義と言える。構想を受け入れる可能性はある。

 むしろ、この地域での使用を想定して中距離核を配備している中国にとって受け入れが厳しい条約ではないかと思う。逆に言えば、構想の実現を通じて中国を核軍縮に追い込んでいくという意味合いもある。

 ―構想を実現する上での最大の障害は。

 北朝鮮だ。北朝鮮が非核化しなければ成立しない。

 ―北朝鮮にとってこれまで、核を巡る主な交渉相手は米国だった。構想の実現に向けた交渉も米朝間が中心になるのか。

 違う。南北朝鮮と日本が一義的には当事者であり、この3カ国で話をするものだ。もちろん、日本は米国の理解を得ながら交渉することになると思う。

 日本も直接の交渉当事者になるということは、その過程で拉致問題の解決に向けて北朝鮮と2者間で話すチャンスもやってくるだろう。

2020年10月、平壌で行われた軍事パレードに登場した新型大陸間弾道ミサイル(コリアメディア提供・共同)

 ▽日本の「矛盾」

 ―構想の実現は、日本がより主体的に核廃絶に向けて取り組むことにつながるか。

 日本は今、米国の核の傘の下にあり、政府は傘を強化してくれと米国に求めてきた。その姿勢と、唯一の戦争被爆国として核廃絶に向かうということは、ベクトルが全く逆で、矛盾している。世界も疑念を持って見ている。

 構想の実現で核の傘は停止するので、日本の立場が核廃絶に向けてはっきりする。中国やロシアの核軍縮についても、基本的には米中ロで話すことだが、日本が介入していくきっかけにもなると思う。

 ―日本が核兵器禁止条約を署名、批准することに道を開くか。

 それは別の問題だ。構想の実現が核保有国の外堀を埋めるものだとすれば、核禁止条約はいわば正面突破作戦で、それだけに大きな壁がある。現状では日本は米国の核に依存せざるを得ず、難しい部分がある。

 ただ、日本には被爆国としての経験があり、米国との核協議などを通じて核保有国の状況もよく分かっている国として、核禁止条約にオブザーバー参加する中で貢献していく必要はある。政府は消極的だが、しない理由がない。

 

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 おかだ・かつや 1953年三重県生まれ。東大卒。旧通産省勤務を経て90年に衆院初当選。2009年外相。12年副総理。20年から立憲民主党常任顧問。

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