ドラ2・伊藤将が好投も… 新人王有力候補3人で阪神票“食い合い”のピンチ

地力の確かさを証明した伊藤将

あかん、〝阪神票〟割れてまう――。阪神のドラフト2位左腕・伊藤将司(25)が15日のヤクルト戦(神宮)に先発し、6回5安打1失点。味方打線の援護に恵まれず7敗目を喫したが、好調ヤクルト打線を相手に、地力の確かさを証明した。今季のセ・リーグは佐藤輝、中野(ともに阪神)のほかにも、栗林(広島)、牧(DeNA)など有力な新人王候補がズラリ。同賞は記者投票によって選出されるだけに、有力候補3人がそろった阪神は〝票割れ〟に陥る可能性すら出てきた。

直球主体の投球でヤクルト打線を相手に一定の結果を残した伊藤将を「いろいろ研究されてきているなと随所に感じる中、これだけ粘れたのは収穫」と矢野監督も評価。チームは0―1で敗れたが、伊藤将本人も「ストレートでも差し込めることができた。次回も(力で)押せるようにやっていきたい。先制されても粘ることができた」と手応えを口にした。

現在7勝をマークしている左腕だが、阪神の新人投手が2桁勝利をマークとなれば2013年の藤浪以来となる。同年に10勝を挙げた藤浪は新人王のタイトルこそ小川(ヤクルト)に譲ったが、連盟特別表彰として新人王に次ぐ「新人特別賞」を受けている。

同じく阪神の近本もルーキーイヤーの19年に打率2割7分1厘、36盗塁(盗塁王)で新人特別賞をゲット。これと比較してもまったく遜色ない数字をここまで残しているのがドラ6ルーキーの中野だ。出場104試合で現在の打率は2割7分。盗塁数23は近本を抑え堂々のセ・トップだ。

そんな新人王レースの行方はここへきて激しさを増しており、この日、DeNAのドラフト2位ルーキー・牧が巨人戦(東京ドーム)で18号ソロを含む、4打数3安打3打点の大暴れ。三塁打が出れば今季2度目のサイクル安打達成というインパクトのある打棒を見せつけ、打率を2割8分2厘にまで上昇させた。東京五輪金メダル獲得にも大きく貢献した広島のドラ1守護神・栗林も同日の中日戦(バンテリン)でセ・2位となる24セーブ目を記録している。

その一方で、長らく新人王候補最右翼とみられていた阪神・佐藤輝は後半戦突入後、35打席連続無安打と大スランプに陥り現在は無期限で二軍調整中。この日もウエスタン・ソフトバンク戦(甲子園)に出場したが、3つの三振を含む4タコに終わるなど、良化の兆しはなかなか見えてこないのが現状だ。

とはいえ佐藤輝がここまですでに、球団新人最多本塁打記録を更新する23本塁打をマークしていることも動かぬ事実。20年に殿堂入りも果たしたスラッガー・田淵幸一氏の数字を更新した意義は大きい。

では、誰が混戦を制することになるのか。記者投票によって選出される新人王は、数字だけではなく所属チームの当年の順位なども含めた「印象」に左右されることも多い。現在首位を走る阪神が16年ぶりとなるリーグ制覇を果たせば、虎の3新人が集票上優位に立てるだろう。だが…。有力候補が同一チームに3人もそろっているからこその〝弊害〟も指摘されている。阪神票の共食いによる票割れ現象だ。

キャリア30年以上のベテランメディア関係者は「佐藤輝、中野、伊藤将、牧、栗林。これだけの数の選手が新人王にふさわしい数字を残しているとなると迷いますよね。決め手を欠いた場合は、やはり優勝チームから新人王を選ぶ人は多くなると思います。ただ阪神が今季優勝するとなると…。実は私の周りでも今からかんかんがくがくの議論が始まっているんですよ」と明かしこう続ける。

「田淵さんを超える23本塁打をマークした佐藤輝は『すでにすごい』存在。この時点で新人王を受賞するに値する数字です。ただシーズン終盤のこの時期に一軍の戦力になれていないとなると、やはり印象が悪くなる。中野がこのままの打率を維持し盗塁王にもなれば…。伊藤将が2桁勝利に到達し防御率も2点台を守れれば…。3選手が拮抗した結果『阪神票』が割れてしまい、逆に牧や栗林が優位に立つかもしれません」

虎党にとってはうれしいような、うれしくないようなビミョーな悩み。佐藤輝の復活はあるのか? 伊藤将、中野、牧、栗林の成績は? シーズンは残り1か月。新人王の栄冠は誰に輝くのか――。

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