パラ開会式、制作は「運命」だった 演出のウォーリー木下さんインタビュー

 9月5日に閉幕した東京パラリンピックでは、車いすの少女が「片翼の小さな飛行機」を演じた開会式が話題を呼んだ。ディレクターを務めた演出家・劇作家のウォーリー木下さん(49)がこのほど共同通信のインタビューに応じ、障害者との作品づくりにも取り組んできた経験から式典の仕事を「運命」と表現。「未来に向けたメッセージを届けなくちゃいけないと全員が思っていた」と式典制作への思いや舞台裏を語った。(共同通信=長谷川大輔、門馬佐和子、田村崇仁)

インタビューに答える演出家で劇作家のウォーリー木下さん

 ▽「ワンチーム」

 ―開会式は多くの人の共感を呼んだ。

 たくさんのクリエーター、スタッフ、出演者が関わっていて、「ワンチーム」というのを掲げていた。全員でアイデアを出し合い、つくり上げる開会式にしたかったし、結果的にそうなった。チームへの評価と受け止めている。普段の舞台の演出のように、トップダウン方式で指示を出して決めていくというよりは、みんなでアイデアを考えて、話し合いながらつくった。

 ―パラの式典だからこそ意識した点は。

 未来に向けたメッセージを届けなくちゃいけないと全員が思っていた。パラの開会式は強く社会に対して「この日を境に何かが変わる」という発信を期待されている。みんなが伸び伸びと(表現)できる場をつくって、その中で表現が行われれば、メッセージはつくれるんじゃないかなと思っていた。

東京パラリンピックの開会式のアトラクションで、主人公を演じる和合由依さん(左)=8月24日、国立競技場

 ▽兄が障害者、恩返しできる仕事

 演出チーム参加に打診があった時は。

 個人的に、演出家と名乗るなら、いつかは国際的な式典のお仕事をしたいなというのは夢としてあった。パラとなれば、なおさら、自分の兄が障害者で、障害者の人との作品づくりもしてきた。自分にとっては運命というか、とてもいい機会をいただいたな、と。いろんな方に恩返しできる仕事で、親孝行、兄弟孝行もできると思った。いままで一緒にやった障害者の方たちもきっと喜んでくれるだろうなと思ったので、喜びしかなかった。

東京パラリンピックの開会式のアトラクションで、「片翼の小さな飛行機」を演じる和合由依さん(中央)=8月24日、国立競技場

 ―車いすの13歳、和合由依さん演じる片翼の小さな飛行機が、勇気と自信を得て空へと飛び立っていくというストーリーが印象的だった。

 ずっと言葉がないまま進んでいって、最後に彼女が飛び立つところで初めて「WE HAVE WINGS(私たちには翼がある)」というテーマが文字でしっかり出る。その時に、見ている人が別の世界の話としてそれを見るのではなく、自分事として見てもらえるようにするのが、今回の一番大きなミッションだった。ラストシーンになると、もう見ていた人たちは全員その物語の中に入って、彼女が飛ぶ瞬間に応援をしていて、自分にも翼があることに気付く、ということを(演出で)しなくちゃいけないと考えていた。

東京パラリンピックの開会式でスタジアムに投影された映像=8月24日、国立競技場

 ▽和合由依さんは素晴らしい役者さん

 ―演技未経験だった和合さんの魅力は。

 まず、明るい。何かを人前でやりたいというピュアな精神が人一倍ある。一度見たら忘れない表情をする。素晴らしい役者さんだと思う。

 ―和合さんも含め、公募を経て70人以上の障害者が出演した。

 ショーとして楽しいものをつくりたかった。全員に何かしらの役があって、その役を借りて自分を表現することに挑んでもらった。「発表会」にはしたくなかった。障害者と健常者が入り交じって作品をつくるのは珍しいことではない。もっと先にある「この表現は面白い」「格好いい」「かわいい」というところまで持っていかないといけないと思った。

 ▽布袋寅泰さんの存在、やることの善も

 ―新型コロナウイルス禍で大会の開催自体に否定的な声も消えなかった。

 悩んでいた時期に(式典に出演したギタリストの)布袋寅泰さんが僕の背中を押してくれた。音楽業界にしろ、演劇業界にしろ「やらない」という選択肢が善みたいな時期があった。でもきっと、やることの善もある。日本の舞台芸術、アートの世界で、障害のある人たちがもっと羽ばたけるような素地をつくっていきたいという気持ちがあった。善にするための努力として、(制作段階から)ものすごく感染症対策もした。

東京パラリンピックの開会式で、光るトラックの上で演奏する布袋寅泰さん(奥中央)=8月24日、国立競技場

 ▽障害者アート普及へパラの風を

 ―障害者による芸術の発展に何が必要か。

 彼らが発信する社会的なメッセージは大きい。きちんと行政がそういうものを援助して、作品をつくりなさいと言っていくような仕組みにしないといけない。(2012年に)パラリンピックを開催したロンドンや英国は障害者アートがすごく盛ん。パラの後に一気に動き、たくさんの劇団ができた。(日本でも)障害者のアートが広まることで、一般の人が日常の中で障害者の人と過ごす時間も、もっと増えていくと思う。パラアスリートやパラパフォーマーが起こしている風を、日本中に吹き荒らしていけたらいい。

  ×  ×

  

 ウォーリー木下 1971年生まれ、東京都出身。神戸大在学中に演劇活動を開始。劇団「sunday」代表。言葉を発しないパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」をプロデュースし、英国エディンバラ演劇祭で五つ星を獲得。国際的な活動も多く、海外でも高い評価を得ている。

© 一般社団法人共同通信社