第6波への備え

 ドイツの児童文学者、ミヒャエル・エンデの「モモ」は、人間の世界から時間を盗み取る謎の集団に少女モモが戦いを挑む物語で、ユニークな脇役が出てくる。モモの友人で無口なベッポじいさんは、たまにぼそぼそ語りだす▲世の不幸は〈せっかちすぎたり、正しくものを見きわめずにうっかり口にしたりする〉言葉が生むんだよ、とベッポはモモに言う。心の行き届かない情報やメッセージが社会をかき乱す。そういう意味だろう▲経済の回復を焦るあまり、状況を見極めずに楽観論を語る。政府のコロナ対応はそう批判され、社会をかえって混乱させた。ベッポのつぶやきは、どうやら的を射ている▲日本のトップは、ワクチン接種が始まって「出口が見えた」と胸を張った。いや、重症者が入る病床を前もって増やしたりと、「備え」こそが肝心だ-。そんな国民の声がやっと聞こえたのか、政府は「第6波」を念頭に、医療体制を整える方針という▲長崎大は、10月上旬まで人の流れを強く抑えられれば、感染の次の波も低くなると推計している。第6波は避けられないにせよ、行動次第で「波形」は変わる▲「モモ」には先の出来事を予知するカメも登場し、少女に危険を知らせる。現実にそんなカメはいなくても、見えない明日への備えならば一人一人にできる。(徹)

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