「政府の手」と人々の善意で「共同富裕」の実現を図る中国

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共同富裕はこの1カ月、国内外メディアが関心を持っている概念と言える。8月17日に開かれた中央財経委員会第10回会議で共同富裕が再度強調された。会議は「共同富裕は全人民の富裕であり、人民大衆の物質生活と精神生活がともに豊かになることで、少数者の富裕ではなく、画一的な平均主義でもない」と強調した。

■「共同富裕」が再び強調された理由

欧米メディアは、これはトウ小平の「先に豊かになれる者たちに富ませ、落伍した者たちを助ける」戦略に大きな変更があり、将来の社会統治(ガバナンス)と富の分配政策に大きな変化が起こることを意味していると見ている。共同富裕そのものは、中国共産党が一貫して掲げている目標であり、国民生活重視の政策を打ち出している現政権の特徴から考えて、当然の帰結である。

「共同富裕」については、2020年11月、「国民経済と社会発展の第14次5カ年計画及び2035年の長期目標の策定に関する中共中央の提案」(以下「提案」と略)には、「共同富裕」に関する内容がはっきりと盛り込まれている。

習近平が党中央を代表して行った「提案」についての説明のなかで、2035年までに「全人民の共同富裕化がより顕著な実質的進展を見せるようにする」と直接述べ、「共同富裕を着実に推進する」ことを強調しており、今後の中国の社会主義建設にとって重要な目標であることを意味している。

共同富裕を達成するために考えるべきは分配問題だ。この問題は全人代前や党大会の前に中国の公式メディアが行う調査で、人々が関心を持っている問題の上位にランクインされている。そのため、中国政府は公共投資を増やして「パイ」を増やすよりも、それを人々の生活に振り向けることに舵を切った。

今回の中央財経委員会第10回会議では、「第三次分配」という聞き慣れない言葉も出てきた。『人民日報』の報道はこう述べている。

「人民を中心とする発展思想を堅持し、質の高い発展の中で共同裕福を促進し、効率と公平の関係を正しく処理し、第一次分配、第二次分配、第三次分配が協調してセットになる基礎的制度設計を行わなければならない。」

「第一次分配」とは、市場で経済効率を重視する分配のことであり、「第二次分配」は政府の力によって公平を実現することで、他国でも見られる概念なので容易に理解できる。

「第三次分配」とは、慈善事業が中心となって、人々が進んで富の分配にかかわることであり、貧しい人、生活が困難な人々に援助の手を差し伸べたいという気持ちが、共同富裕の実現にとって非常に重要だ。

実は、「第三次分配」は、「提案」の中でも言及されており、今後の中国の社会主義現代化強国の建設にとって必要だ。

■改革開放の「負の遺産」を処理するための「共同富裕」

改革開放初期、中国はイデオロギーを優先させた政策のため、「一に貧困、二に空白(経済的に貧しく、文化的にも技術的にも立ち遅れている)」の状態で、人々は等しく貧しかった。それは改革開放以前の所得分配の絶対的な平等主義によって、人々が富を生み出す意欲を失っていたのが原因だ。これは8月17日の会議で言及された「画一的な平均主義」を指し、今後はこのような政策をとらないことを中国共産党は何度も言明している。

トウ小平はこの状況を受けて、平等よりも、成長を促進してパイを大きくすることに重点を置いた。

所得分配の面では効率を優先し、「先に豊かになれる者たちに富ませる」ことを基本的方向性とし、資本の発展にプラスとなる措置を打ち出した。具体的には、私営企業の発展を奨励、外国企業の誘致のための優遇策などが挙げられる。

改革開放以降、中国経済は40年以上連続で高度成長を続けた結果、世界2位の経済大国に成長しただけでなく、1人当たり国内総生産(GDP)も1万ドルの大台を突破した。

だが、急速な経済成長とともに、住民部門の所得分配のアンバランスも拡大した。例えば、2019年の中国の所得ジニ係数は0.465に達した。この数字は世界的に見て高い水準にあり、地域間、階層間の所得格差がなお存在していることを意味する。またこのレベルは、米国、英国、日本、ドイツなどの先進国を大きく上回っている。

クレディ・スイス(Credit Suisse)の「ワールド・ウェルス・レポート2021」のデータによると、2020年の中国の財産ジニ係数は0.704に達し、フランス、イタリア、日本などの先進国を上回った。これらのデータは中国の所得と富の分配のアンバランスが深刻になっていることを示している。世界各国の経験から見ると、所得分配問題がうまく解決されないことは、多くの発展途上国が最終的に「中所得の罠」の最も大きな原因の一つとなる。このため、中国共産党は所得分配問題を重く見て、8月の会議でも言及したのである。

■ボランティア精神で格差是正を

「第三次分配」について、「提案」は「慈善事業を発展させ、収入と富の分配の構造を改善する」と述べている。「第三次分配」は個々人の道徳心などを拠り所としており、貧しい人たちを助けたいという気持ちで、共同富裕を実現するものだが、慈善事業や企業の社会的貢献が重要となってくる。

改革開放40年、中国は「パイ」の拡大に重点をおき、弱者救済などは二の次になりがちだったが、この10数年、中国政府は改革開放の「負の遺産」の処理に取り組んでおり、公平を重視している。それにともなって、慈善事業も発展している。2014年に「慈善事業の健全な発展に関する指導意見」、2016年に「慈善法」が制定され、制度面では慈善事業発展のための基礎は築かれている。

9月5日付の「人民ネット」の報道は、「第三次分配及び関連の付帯制度の確立と健全化に伴い、慈善事業は社会統治(ガバナンス)に深く関わっており、共同富裕を推進する重要な役割となっている。それと同時に自身の建設と発展においても大きな変化が生じ、慈善事業は第三次分配の主要なルートとなっており、その中心的な要素は慈善事業を発展させ、大きくすることだ」という専門家のコメントを紹介しており、「第三次分配」は経済分野だけでなく、社会の安定にも役立つと分析している。

中国にボランティア文化が存在する。各団地にある「社区」といわれるコミュニティーには、高齢者のボランティアがおり、各種イベントなどには学生ボランティアが動員される。社会実践としてボランティアをする学生もいる。この文化は「第三次分配」の主力として期待される慈善事業の発展にプラスとなる。

人民ネットの記事は、中国の慈善事業は大衆化・規範化・透明化・専門化してきており、一定の発展を見ているが、政策上のインセンティブが不足しているという欠点があり、財政が慈善事業を援助することも必要だと指摘している。

まだ問題はあるが、中国の発達している地域は人々の道徳水準も高くなっており、慈善事業を発展させる土壌がある。また、企業の社会的責任も言われるようになっており、慈善事業に関心のある企業も「第三次分配」の担い手になっている。

■「共同富裕」の目的は中間所得層にあり

中国政府が所得分配問題を解決するために「共同富裕」を強調したのは、中国経済が双循環の新たな発展構造を構築する上でも極めて重要だからだ。

内循環を主体とし、内外循環が相互に促進する双循環の新たな発展構造を構築するには、内需が非常に重要だ。そのエンジンとして、消費の拡大・高度化がカギとなる。現在、中国の消費が伸びているが、その担い手は主に中間所得層だ。中国政府が進めている「共同富裕」化政策は消費のさらなる増加のために、中間所得層を増やすことだ。

中国の国民生活重視政策は一定の成果をあげているが、まだ低所得層が一定数存在する。低所得者の所得をあげることは、中間所得層を増やすために重要なことだ。中低所得世帯の所得水準を持続的に引き上げられれば、中低所得世帯の所得の増加が続けば、所得の多くを消費に回すことになり、双循環の新たな発展構造が現実味を帯びることになる。

「共同裕福」は、「殺富救貧(富めるものを殺して貧しい者を救う)」ではないかという見る向きもあるが、これまで述べてきたように、「共同富裕」は先に豊かになった人々が遅れをとっている人を助けるというものだ。格差是正には、もちろん「政府の力」が必要だが、それを補うものとしての慈善事業を通じての「分配」も重要な役割を発揮している。

今、中国は「上からの調節」と「下からの調節」を組み合わせて「共同富裕」を実現しようとしており、それは社会の成熟度が重要な要因となるだろう。