<金口木舌>当たり前の有り難さ

 児童文学作家の上條さなえさんの小説「月と珊瑚」は沖縄の今を生きる少女たちの物語。両親と疎遠になっている主人公の珊瑚を支えているのが、祖母で民謡歌手のルリバーだ。戦後の貧しさをたくましく生き、孫に深い愛情を注ぐ

▼上下関係で衝突しがちな親子とは違い、緩やかな関係の祖母は、孫に安心感を与える存在なのだろう。祖父もしかりだ。最近は「孫育て」という言葉が定着し、育児の大部分を支援する祖父母も珍しくない

▼新報川柳には孫とのほのぼのとした交流を詠む作品が多い。「よく見ればスマホの中は孫ばかり」「ジィージィーと蝉の真似して孫が呼び」。孫を思いやる気持ちが伝わってくる

▼孫の世話を巡っては、昔と現代とでは育児の「常識」に違いがあるようだ。祖父母と親との間の仲たがいを防ごうと、さいたま市、横浜市などは祖父母手帳を発刊し、子育ての方法を助言している

▼厚労省の発表では日本人の平均寿命は女性87.74歳、男性81.64歳で過去最高を更新した。少子高齢化も進んでいる。知恵や経験のある年長者は、これまで以上に社会生活を支える不可欠な存在になりそうだ

▼20日の敬老の日を含むシルバーウイークが始まった。祖父母の愛情を子や孫世代は当たり前のように受け取りがちだ。感謝の言葉を伝える日にしたい。高齢者が歩んできた人生を聴く機会をつくってもいい。

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