【在宅医・佐々木淳コラム】「第6波」に備えて

佐々木医師提供

重症新型コロナ肺炎で入院された方が、無事退院されたとクリニックまで報告に来てくださいました。

夕刻、保健所からの依頼で訪問すると口唇チアノーゼあり、動脈血酸素飽和度は80%台。時間単位での急激な状態の悪化。このまま自宅で治療できる状況ではないと保健所に調整を依頼するも入院先は確保できず。救急要請するも搬送先が確保できず。結局、自宅に酸素濃縮器を2台配置、リザーバーマスクで90%、なんとか入院までをつないだ方でした。

あの時、往診してくれていなければ死んでいたと思います。奥様はそうおっしゃっていました。

そしてもう1つ、うれしいニュースが。

治療の途中で病院を「自主退院」した30代の男性。保健所からの依頼で訪問すると、動脈血酸素飽和度が80%台。入院中には抗ウイルス薬が投与されていたとのことですが、呼吸状態は非常に悪く、在宅酸素7リットルで吸入しても90%程度にしか上がりません。

再入院すべきとの説得に応じてくれたものの、今度は受け入れてくれる病院が見つかりません。結局、自宅で治療を継続することになりました。なかなか回復しない酸素飽和度と自覚症状。毎日祈るような気持ちで電話と往診を重ねてきました。しかし、ようやく完全に解熱。低酸素血症も食欲も回復し、隔離解除することもできました。

新型コロナ肺炎を自宅で診るべきか。

僕は入院させるべきだと思います。急変のリスクの高い、特にハイリスクの中等症Ⅱ以上の肺炎を自宅で診るのは決して安全ではありません。しかし入院できるベッドがなければ、在宅医療で診ていくしかありません。

私たちが8月11日からの1か月間、在宅医療で関わった患者さんのうち、167人が中等症Ⅱ以上の新型コロナ肺炎の状態でした。うち、65%の患者さんが最終的に入院しましたが、入院できるまでの間、在宅で治療を行い、病院につなぎました。また35%の患者さんは入院せずに在宅で回復され、現時点で大部分の方が隔離期間を終了しています。この期間中、在宅で死亡した人は一人もいませんでした。

限られたコロナ病床キャパシティの中での入院を優先すべき患者のトリアージ、入院待機中の在宅での医療提供。いずれにおいても「失われる命を1つでも少なくする」という在宅医療に課せられた社会的使命は果たせたのではないかと思います。

先日スタートさせていただいた悠翔会のクラウドファンディング。

現時点で2200人もの方から温かいご支援とメッセージをいただいています。私たちが日ごろ訪問診療にお伺いしている患者さん、そして今回のコロナの在宅医療で関わらせていただいた患者さんからもたくさんの応援をいただきました。お一人お一人からのメッセージを拝読しながら、多くの方が、コロナの在宅療養に対する強い不安、そしてそれを解消するための取り組みを求めておられることを強く感じます。

第5波は収束しつつあると考えていいと思います。しかし、第6波は避けられないという予測もあります。第5波の現場での学びを自治体や関係当局等にフィードバックしながら、まだまだ続くコロナとの戦いに堅実に備えます。そして、もしも再びの感染拡大によりコロナ病床のキャパシティを超えたとしても、在宅医療がより円滑かつ柔軟に対応できるよう、シミュレーションを重ねておきたいと思います。

佐々木 淳

医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 1998年筑波大学卒業後、三井記念病院に勤務。2003年東京大学大学院医学系研究科博士課程入学。東京大学医学部附属病院消化器内科、医療法人社団 哲仁会 井口病院 副院長、金町中央透析センター長等を経て、2006年MRCビルクリニックを設立。2008年東京大学大学院医学系研究科博士課程を中退、医療法人社団 悠翔会 理事長に就任し、24時間対応の在宅総合診療を展開している。

© 合同会社ソシオタンク