♪どんぶり鉢ゃ浮いた浮いた どん兵衛のCMソングのルーツはお座敷唄
どんぎつねさん（吉岡里帆）と、ごく普通のシングル男性（星野源）のコンビがすっかり根づいている、日清の「どん兵衛」CM。とはいえ、どん兵衛を見かけると、私はいまだにあの歌を思い出す。
どんぶり鉢ゃ浮いた浮いた
つるりんとシャンシャン
その昔、どん兵衛CMといえば山城新伍と川谷拓三コンビだった。1976年のどん兵衛誕生から1990年まで、なんと14年にも渡ってこのオジサンコンビが出演。着流し姿で旦那風の山城と、腹掛け姿で人夫風の川谷。二人の設定は謎だが、「♪どんぶり鉢ゃ」というCMソングと相まって、いなせで軽快なCMだった記憶がある。
あの歌、実はちゃんと元ネタがある。「♪松の木ばかりが まつじゃなし」のお座敷唄「まつのき小唄」をヒットさせた、二宮ゆき子が歌う「ステテコシャンシャン」。歌詞は変えているもののどん兵衛の歌も、いかにもなお座敷唄。芸者さんが三味線を弾きながら、艶っぽく歌っている姿が目に浮かんでくる。
食べものCMでは画期的だった？ 共に左利きのどん兵衛コンビ
当時あのCMを見るたびに、へぇーっと思ったことがある。山城・川谷、共に左利きなのだ。並んでどん兵衛を食べる場面が当然多く、二人の利き手が違うと目につくもの。だが、二人とも左利きだったので、なんとなく見ていると気づかない。
私が子どもの頃、近所のオジサンから「左利きだったけど、無理やり右利きに矯正させられた」なんて話を聞いたことがある。そのためCMを見て、「へぇ、オジサンでも左利きっているんだな」と思った（そりゃ、いるよね）。
だが、のちにワイドショー『ルックルックこんにちは』の人気コーナー「突撃！隣の晩ごはん」に出ていたヨネスケが、視聴者のクレームで左利きを右利きに変えたことを思うと、当時の食べものCMとしては画期的だったのかもしれない。だからこそ、視聴者に気づかれないための左利きコンビだったのか。
山城新伍と川谷拓三、実は仲が悪かった？
かなりの映画通だった山城、1980年には自身が製作・監督・脚本・主演を兼ねた『ミスターどん兵衛』という映画までつくっている。もちろん川谷も、この作品に出演している。
どん兵衛CM当時の山城は30代後半から40代で、川谷は山城より３歳下。今思うと二人とも若いのだが、当時は映画『仁義なき戦い』シリーズにも出ていた、ちょいこわもてなオジサンコンビ。14年も続いたのは、そのオジサンたちが仲良くうどんをすする、微笑ましい姿、ユーモラスなやり取りが視聴者に受けたのだろう。
のちに、このコンビ実は仲が悪く、特に川谷が山城を嫌っていたという噂を聞いた。大部屋俳優から上り詰め、役者一筋で生き抜いた名バイプレイヤー川谷。東映ニューフェイスとして芸能界入りし、すぐに主演を演じ、司会者としても活躍した器用な山城。対照的な二人ではあるのだが、そのコントラストがあのCMの良さでもあったはず。本当に仲が悪かったのか、二人とも故人となった今では、真相は闇の中。
80年代という時代と寝ていたTHE 芸能人、山城新伍
80年代に活躍した司会者は数々いるが、当時もっとも “時代と寝ている” 感があったのが、山城ではないだろうか。トークがとにかく軽快で、女好きで、大物たちとの幅広い交友関係があって、いかにもコガネを持っていそう。
山城といえば、司会をしていたクイズ番組『アイ・アイゲーム』でよく使われていた「チョメチョメ」という伏せ字を思い出す人も多いだろう。ちょっといやらしさがある “チョメチョメ”、いかにも山城新伍である。浮気が原因で、元女優・花園ひろみと離婚・再婚を繰り返したのも彼らしい。
そんな “THE 芸能人” な人だったから、元妻と娘に愛想をつかされ、糖尿病を患って車椅子となり、老人ホーム暮らしとなった晩年エピソードはつらい。友人だった松方弘樹や梅宮辰夫の訪問を頑なに拒んだというから、その姿をかつての仲間たちには見せたくなかったのだろう。華々しく生きていた時代がある人の、最後の意地だったのか。
老人ホームにいる山城を唯一訪ねることができたのが、女優・川上麻衣子。そう知って、あぁそこね、わかるわかる、と膝を打ってしまった。そんなところにも、山城新伍らしさを感じたのだった。
カタリベ: 平マリアンヌ
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