前野曜子が歌うハードボイルドSFアニメ「スペースコブラ」主題歌  リマインダーが選ぶ80年代アニメソングランキング 第6位

寺沢武一原作のスペースオペラ「スペースコブラ」

“ハードボイルド” とは、平成と令和の世の中では存在するのが難しい概念である。だからこそ、80年代を華やかに彩ったハードボイルドSFアニメ『スペースコブラ』は驚異に満ちて輝いている。

『スペースコブラ』は1982年から1983年にかけて放送された、寺沢武一の漫画『コブラ』を原作とするアニメシリーズのひとつである。一匹狼の宇宙海賊コブラと相棒アーマロイド・レディが、銀河中を舞台にスリルと危険に満ちた冒険をするスペースオペラだ。

主人公であるコブラの、普段は三枚目だがここ一番では華麗に事態を解決するというキャラクターや、アメリカのハードボイルド小説のような軽妙洒脱なセリフが魅力的である。監督の出崎統による止め絵を多用した渋くてドラマチックな演出も、観る者に忘れられない印象を残す。

平成生まれの胸にも真っ直ぐ響くコブラの強さとユーモア

平成生まれの私は、勿論リアルタイムで観てはいないが、コブラの存在は意識的に作品に触れる前に自然に知っていた。なぜなら、インターネット上にコブラの漫画の一場面を用いたコラージュ画像が沢山出回っていたからだ。それらは大体のところ、有名漫画の絶望的な状況や絶体絶命の場面にコブラが突然乱入して全てを解決してくれるというもので、今風の漫画の絵柄が急に劇画調になり圧倒的な力で無理矢理ハッピーエンドがもたらされる展開が笑いを誘う。

そんな面白おかしいパロディの中であっても、コブラの強さとユーモアから成る格好良さは、平成生まれの胸にも真っ直ぐ響いた。

「神か…… 最初に罪を考え出したつまらん男さ」
「だれも見ちゃいないさ 月以外はね!」
「俺がオリンピックに出れば金メダルでオセロができるぜ」

などの名台詞もコラージュ画像から覚えたものだ。

そして、『スペースコブラ』といえば忘れてはいけないのが、前野陽子の歌うオープニングテーマである。

前野曜子が歌うオープニングテーマ「コブラ」

 街をつつむMidnight fog
 孤独なSilhouette 動き出せば
 それは まぎれもなく ヤツさ

という有名なしびれるフレーズ。OP映像では不敵に笑うコブラの左目に地球が収まる様子や、悪戯っぽく左腕のサイコガンにキスする様子がオーバーラップする。歌詞には80年代アニメらしい洒落た雰囲気と共に壮大さが漂い、曲調には、これから見たことがない世界を見せようという雰囲気が満ち溢れている。そこに銃に変形した左手を持つ異形の主人公の映像が合わさり、視聴者を魅惑的な驚異の世界に連れて行く。

『スペースコブラ』という作品自体の根底に驚異があると思うのだ。物語の始まりからして、平凡なサラリーマン(といっても結構遊び心がある性格だが)として暮らしていたジョンソンが、ある事件に巻き込まれたことをきっかけに、自分がかつて、賞金首の大宇宙海賊コブラであったこと、その血生臭い過去を断ち切るために記憶を消し顔を整形し世間も自分をも欺いて5年前から別の人生を送っていたことを急に思い出すという驚きを起点にしている。

三枚目としても最高に魅力的!主人公コブラ

主人公のコブラは、そのような、日常とアイデンティティが転覆する衝撃に耐えうる精神力を持つ男である。戦闘時だけではなく、普段の言動からもそのことはよく分かる。例えば、過去のコブラは長い黒髪に端正な顔立ちの美男子だったのに対し整形後のコブラはくしゃくしゃの髪と垂れ目と丸い鼻の愛嬌ある顔立ちになっている。姿の変化に合わせて振る舞い方を変えるだけでも大変なことなのに、コブラは三枚目としても最高に魅力的に振る舞うことができるのだ。

並外れて強靭な精神力を持つコブラだからこそ、サイコガンという、心身の状態がダイレクトに反映する特殊な武器を使いこなすことができるのだ。コブラは肉体も精神も並外れて強いが、その理由を尋ねられても飄々とした態度と冗談で煙に巻き、決して明かさない謎の人物として描かれる。

『スペースコブラ』のような驚異に満ちた物語が現在の日本で生まれることは難しいかもしれない。今年放送された、庵野秀明監督を取材したNHKの番組『プロフェッショナル仕事の流儀』において、庵野秀明監督は「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなってきている」と語った。不安定な世の中においては、人々は謎に満ちた驚異(ワンダー)を楽しむ余力がなく、寄り添ってくれる共感(シンパシー)を求めるのだと思う。

1982年の洒脱な美意識に貫かれたテーマソング

私がリアルタイムでコブラに出会った場がパロディという安心できる模倣の笑いであったことも頷ける。しかし、その中でもコブラは、安易なクリシェではなく本気の格好良さを見せていたのだ。ここに、コブラというキャラクターと彼が生まれた時代の強さが見える。

コブラが活躍した日本70年代後半から80年代前半という時代は、アニメーションが海外の映画やSF作品への憧れを表現しようとしていた時代だったのだと思う。アニメーションだけでなく、繁栄を謳歌する社会に、遠い国や未知の物などの驚異(ワンダー)を求める力があった時代だったのだろう。

そんなことを、1982年の洒脱な美意識に貫かれたテーマソングを聴きながら考えると、私には、その頃の日本とそこに生まれた文化こそが、銀河を旅して辿り着く別の惑星のような魅力的な驚異に満ちた場所に思えてくるのだ。

カタリベ: 郷ルネ

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