150キロでも「打たれたら何も残らない」 元ロッテ成瀬が抱く危機感と“技巧派”への転機

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現在はBC栃木に所属している成瀬善久【写真:川村虎大】

横浜高2年時に141キロ計測も、渡辺監督から「コントロールでいけ」

First-Pitch編集部では少年野球の「指導」をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」をお届けします。今回はロッテのエースとして活躍し、現在はルートインBCリーグ「栃木ゴールデンブレーブス」の成瀬善久投手兼任コーチ。成瀬の特長はボールの出所が見えにくい投球フォームと制球力。指導者としても活動する今、投手がスピードばかり追い求めることに危機感を抱いている。そのワケとは。【川村虎大】

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テークバックが小さく、“招き猫投法”とも呼ばれるフォームから、捕手が構えたところにボールが吸い込まれていく。成瀬といえば、魅力はその制球力だった。ロッテ時代、球速は140キロ前後。独特なフォームから直球やチェンジアップを出し入れし、2007年には16勝1敗、防御率1.81で最優秀防御率、最優秀投手(勝率1位)のタイトルを獲得した。翌2008年には北京五輪日本代表にも選出された。

そんな成瀬だが「元々、自分は速球派だと思っていたんですよ」と回想する。中学時代には軟式で130キロをマーク。横浜高に進学し、高校1年生で139キロ、2年で141キロを計測。球が遅いと感じたことはなかった。ところが、2年時に転機が訪れた。1学年下に涌井秀章投手(楽天)が入学してきたのだ。

「渡辺(元智)監督(当時)に『お前は球速で涌井に勝てないから、コントロールでいけ』って言われたんです。それが今のフォームに繋がったんです」。理解するまでに多少の時間はかかったが、素直に受け入れることができた。

「もともと、コントロールにも自信あったんです。だから受け入れられたんだと思います」。中学時代から制球を磨いてきた。そして、直球を速く見せるために、球の出所が打者から見えにくい現在のフォームに改良。ロッテ、ヤクルト、オリックスと渡り歩いたNPBで通算96勝を挙げた。

「まずは狙った所に5割の力でいいから投げられるようにする」

成瀬は現在、栃木で現役を続けながらコーチとしてNPBを目指す若手に指導を続ける。ルートインBCリーグにも150キロ超の速球を投げる投手はいるが、それだけで打者を抑えられるわけではない。球速だけを追い求める若手に危機感を覚えている。

「BCリーグでも甘く入ったら打たれるんですよ。150キロを何となくストライクゾーンに投げる。それで打たれたら何も残りませんから。だったら7、8割でいいからコーナーにきっちり投げられないのかなって思います」。

将来、NPBを目指す野球少年にも伝えたいことがある。理想は160キロの速球を内角、外角にきっちりと投げ分けることだろうが、それは相当高い技術が求められる。

「できないならまずは正しいと思ったフォームでボールを投げて、狙ったところに5割の力でいいから投げられるようにする。その後、7割、8割って徐々に力を上げていく。できるようになれば、試合中、困った時に狙ったところへ投げることができますから」

10月に36歳になるが今でも球速は140キロに迫る。速い球を投げたいという子どもの時からの気持ちは今も忘れてはいない。そんな思いがピッチングを研究する原動力にもなっている。スピードを求めることも大切だが、打たれてしまったら意味がない。怪我を防ぐフォーム作り、コントロール。それが伴ってこそのスピードボールであることを子どもたちは忘れないでほしい。

◯プロフィール
成瀬善久(なるせ・よしひさ)1985年10月13日、栃木県小山市出身。横浜高(神奈川)から2003年ドラフト6巡目でロッテに入団。2007年には16勝1敗、防御率1.81とで最優秀防御率、最優秀投手賞(勝率第1位)のタイトルを獲得。2008年には北京五輪日本代表にも選出された。その後は、ヤクルト、オリックスと渡り歩き、NPB通算96勝78敗、防御率3.43。2020年より独立リーグ・ルートインBCリーグの「栃木ゴールデンブレーブス」に投手兼任コーチとして所属。野球解説やメディア出演、野球教室などを行い、普及活動にも携わっている。

【動画】球を速く見せるかを追い求めた究極のフォーム NPB通算96勝を誇る成瀬善久の現在の投球映像

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(記事提供:First-Pitch編集部)