公的年金、iDeCo、個人年金…老後のお金の受け取り方で損をしない方法は?

老後のお金に不安を感じている人は多く、節税効果が大きいiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者数は、2021年6月時点で205万人を突破しました。加入するときは制度のことを調べるけれども、受取りの時期や受け取り方法まではあまり考えていない人が意外と多いようです。よく考えずに受け取り方を選んだ結果、税金の負担で大きな差が生じるケースもあります。

今回は、控除や税金を踏まえて、老後のお金の受け取り方を考えていきましょう。


公的年金額は受け取る時期によって増減する

まずは老後資金の基盤となる公的年金を押さえておきましょう。老齢基礎年金は、65歳から受け取るのが原則です。希望すれば、早く受け取ったり、遅く受け取ったりすることができます。

たとえば60歳以上65歳未満の間で受け取りを開始する「繰上げ」を希望すると、請求した翌月分から受け取ることができます。しかし早く受け取ると、65歳になる前月までの月数に0.5%(2022年4月からは0.4%)を掛けた率が減額され、一生変更することができません。

一方、年金を遅く受け取る「繰下げ」の場合には、割増があります。増額率は、1か月遅くなるごとに0.7%ずつ上がり、70歳から受け取ると42%増額されます。2022年4月からは75歳からの受給開始で、84%増額されることになっています。

会社員や公務員が加入する厚生年金では、65歳になる前の特別支給の老齢厚生年金がない人は繰上げをすることができます。また老齢厚生年金の繰上げを請求する場合は、老齢基礎年金も同時に繰上げ請求となります。繰下げの場合には、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げの請求をすることができます。減額率や増額率については、老齢基礎年金の場合と同じ計算方法です。

iDeCoの受け取り方法

iDeCoは、掛金が全額所得控除になり、運用益が非課税で、税制面で有利な制度ですが、受け取り時には、何歳から受け取るのか、どのように受け取るのか自分で選択ができます。iDeCo(個人型確定拠出年金)の受け取り方には、一時金(一括)、年金(分割)、一時金と年金の併用の3つの方法があります。受け取る方法により、所得から差し引ける控除が違い、税金が変わってきます。

一時金で受け取る場合

iDeCoを一時金で受け取る場合には、退職所得控除が適用されます。

退職金をもらう場合には、退職金とiDeCoの積立金の合計額となります。退職所得控除の額は、掛金の積立年数によって計算方法が変わります。iDeCoの受取金の場合には、掛金を掛けている加入者としての期間が退職所得控除の「勤続年数」になります。ただしiDeCoと勤続年数が重複している期間がある場合には、重複期間は控除され、長い方を採用して控除期間を計算することになっています。勤続年数が30年、iDeCoの加入期間が20年の場合には、単純に足し算して50年にはならないので注意しましょう。

控除の枠内ならば全額非課税で受け取ることができますが、控除の金額を超えた場合には控除を超えた所得を2分の1にした上で所得税がかかり、金額に応じた区分に従い課税されます。退職金が多い場合には、非課税のメリットが十分に活かせないことがあります。

退職所得=(退職収入-退職所得控除額)×2分の1

年金で受け取る場合

iDeCoを年金(分割)で受け取る場合には、公的年金等控除が適用されます。

年金で受け取ると「雑所得」となり、公的年金の収入とiDeCoの収入の合算の金額から公的年金等控除を差し引くことができます。公的年金等控除額は65歳未満と65歳以上で異なります。

公的年金等の所得額=公的年金等の収入金額-公的年金等控除額

分割して年金として受け取る場合には、受取期間や受取回数は金融機関で異なっていて、選択肢はさまざまです。5年以上20年以下の有期年金として受け取ることが一般的です。

65歳以上になると、多くの人が公的年金を受け取りはじめるので、公的年金とiDeCoを合わせるとiDeCoの収入分が課税させてしまうケースが多くなります。まだ受け取っていないiDeCoの残高分は、運用成績によっては受取額を増やせる可能性があるとはいえ、年金受け取りでの課税はデメリットです。雑所得が増えると所得税や住民税が上がり税負担が増えるだけではなく、健康保険料や介護保険料にも反映し、さらに負担が増えます。そこで公的年金収入がないうちに公的年金等控除を活用し、60歳から65歳までの5年間で受け取る方法も一案です。

受け取り時に注意したいこと

退職金がない自営業者や退職金が少ない会社員の場合、一時金で受け取ると退職所得控除により税金がかからないので、お得な受け取り方になるでしょう。しかし、退職金をもらい退職所得控除枠を使い切ってしまうと税金がかかってしまうので、iDeCoの一時金を退職所得控除の枠内でとどめておき、残りを年金でもらう併用のパターンもあります。

さらに退職金とiDeCoの老齢一時金の受取時期をずらす方法もあります。退職所得控除を再度利用するには制限があります。先に退職金を受け取り、後でiDeCoを一時金で受け取る場合15年以上の期間がないと退職所得控除額が調整されます。逆にiDeCoを先に受け取り、5年以上経過して退職金を受け取れば、それぞれ全期間で控除額を認める決まりになっています。退職時期が決まっている会社もありますが、たとえば60歳でiDeCoを受け取り、65歳で退職金を受け取れば、両方の制度で退職所得控除が利用できます。

個人年金保険の受け取り方法

個人年金保険は、生命保険会社などが取り扱っていて、公的年金の補完として利用されています。10年以上にわたって保険料を支払い、60歳以降に10年以上年金を受け取るなどの条件を満たすと、生命保険料控除を利用して老後資金の準備ができます。

年金の受け取り方は、一括で受け取る方法と年金で受け取る方法があります。受け取る金額は、一括で受け取る場合は、年金で受け取る場合の総額よりは目減りして少なくなります。

契約者と受取人が違う場合には贈与税がかかりますが、ここでは契約者と受取人が同一である場合を取り上げます。

一括で受け取る場合

契約者と受取人が同一で年金を一括で受け取る場合には、所得税の一時所得になります。
一時所得の計算は、

一時所得=受取った金額-支払った保険料-特別控除額(50万円)

となり、税金は一時所得の金額を2分の1したものにかかります。特別控除額が50万円あるため、受取った金額と支払った金額の差額が50万円以上ない場合は課税されません。

年金で受け取る場合

契約者と受取人が同一で年金形式で受け取る場合には、所得税の雑所得になります。雑所得は、公的年金等の所得と公的年金以外の所得とを合算したものなります。公的年金等の収入には控除がありますが、個人年金には控除がありません。

年金受け取りの場合の保険金の雑所得金額の計算は

公的年金等以外の所得額=収入金額-必要経費

になります。必要経費は、確定年金や終身年金など年金の型によって異なります。

受け取り方をシミュレーションしてみる

個人年金保険の場合には、税金と受取金額に分けてシミュレーションしてみましょう。原則的には、年金でもらった場合の方が受け取り総額は多くなります。

<モデルケース>
月々1万円、35年間保険料を納め65歳から10年間確定年金としてもらう場合

払込保険料総額 420万円
一時金受取り 542万8,304円
確定年金 基本年金額57万200円 受取総額570万2,000円

一時金受取の場合は、受取った金額から支払った保険料を差し引いて、特別控除を差し引いた一時所得に課税される金額は、36万4,152円になります。所得税率が10%なら所得税は3万6415円です。手元に残る金額は539万1889円になります。

一方、年金で受け取った場合には、年金額57万200円、必要経費は41万9,999円になり、雑所得の金額は15万201円です。所得税率が10%なら所得税は1万5,020円です。

受取総額から10年間の所得税を差し引くと、手元に残る金額は555万1,800円です。年金でもらう場合には、一時金でもらう場合とくらべると15万9,911円多くなります。

たとえば、一時金でもらうときに、特別控除があるため税金がかからないという場合であっても、手元に残る総額を一時金と年金に分けてくらべてみましょう。また予定利率が高いときに加入した保険の場合、思った以上に税金がかかるということもあります。


人生100年時代を背景に、2021年4月から70歳までの雇用の確保が努力義務化されました。定年が廃止された企業も見受けられ、働き続けるという選択肢も広がりました。どのような老後を過ごすのか、いつまで働くのかを選べる時代になってくれば、人によってベストな年金の受け取り方が異なってきます。一般的にお得といわれるものが当てはまらないケースもあるので、年金を受け取る前にシミュレーションをしておくとよいでしょう。

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