パラマラソン金・道下美里が目指す〝最高峰〟のステージ「歌う方で紅白に出たいんです」

東京パラリンピック・陸上女子マラソン(T12)で金メダルを獲得した道下美里(代表撮影)

【取材の裏側 現場ノート】天真爛漫な金メダリストの素顔とは――。5日に行われた東京パラリンピック・陸上女子マラソン(T12)は、道下美里(44=三井住友海上)が3時間0分50秒で悲願の金メダルを獲得。「すごくうれしい」と感慨深げに語った一方で、ある夢の実現も切に願っている。

2016年リオ大会では、銀メダルに輝きながらも「すぐには切り替えられない部分もあった」と失意に暮れたが、レース後の打ち上げで夫・孝幸さんが「また4年後にみんなで集まりましょう」と高らかに宣言。道下は「主人も金メダルを狙って一緒にやっていたんだなと改めて感じた。もう1回私1人だけじゃなくて、みんなのためにもう一度頑張ろう」と覚悟を決め、再スタートを切った。

東京大会に向けては「気持ちが切れないことが一番大事」と長期プランを策定する中で「ギリギリ達成できるような目標を常に置いた」と日々自らを追い込んだ。さらに、新型コロナウイルス禍の中でも「自分ができることをやろうと思った」と1日1000回の腹筋と背筋をノルマにした。食事面でも「筋肉をしっかり付けられるように1日30品目を必ず取るようになった。例えば肉、魚、卵、大豆の4種類を必ず取るとか、基礎的なところを見つめ直した」。どんな時も前を向き続けたからこそ、手にした栄冠だった。

ストイックに陸上道を貫いたが、陸上を離れれば、いい意味でアスリートらしさがなくなる。昨秋のインタビュー時には「陸上漬けの毎日なので、顔のお手入れをしなきゃって、距離走の度に顔のパックを伴走者の方と一緒にやっています」と照れ笑いを浮かべながら告白。このギャップが道下の魅力の一つだ。

さらに、記者が「金メダルを取ったときのご褒美は何にしますか?」と質問した際には「リオのときにから揚げが食べたいって言ったら、約1か月間本当に気持ち悪くなるくらいから揚げ三昧の日々を送ってしまった」と苦笑い。6日の一夜明け会見で「唐揚げを4つ食べました」と話していたのを聞いて、私は「リオの反省を生かしてセーブしたんだな」と妙に納得してしまった。

ただ、まだ最大のご褒美はゲットしていない。インタビュー時に道下は「紅白に出たいです」と声を弾ませていた。19年に陸上・女子走り幅跳び(T64)の中西麻耶(阪急交通社)が紅白歌合戦の審査員を務めたことから、私が「道下選手も審査員を狙っているのか」と思ったのもつかの間「(同じパラアスリートの)中西選手に先を越されましたが、私は歌う方で出たいんですよ。それは絶対にかなわないですけど、歌うのは小さいときから好きです」と明かしてくれた。

大一番の力走は、きっと多くの視聴者の胸に響くものがあっただろう。私は年末に道下選手が紅白の舞台で見られるのを楽しみにしています。

(五輪パラリンピック担当・中西崇太)

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