コークスクリューで痛恨のスピンを喫した佐藤琢磨「レースではスピードがあって何台も抜けた」

 NTTインディカー・シリーズ第15戦は、2年ぶりとなるラグナセカ。2019年にインディカーのカレンダーに復活したが、昨年はコロナ禍で中止となっており、ここでのレースを待ち望む声は多かった。

 そして今シーズンも残り2戦となりチャンピオン争いも大詰めで、ランキング上位のドライバーにもプレッシャーがかかる。色々な意味でラグナセカは重要な一戦となった。

 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨にとってもこのレースは重要だった。前戦ポートランドのレース後にはチーム移籍のニュースが流れるなど、琢磨とレイホール・レターマン・ラニガンの周りもざわつき始めた。ニュースの真偽は明かされないとしても、残り2戦で結果を出しておくのは必要だ。

 今年の琢磨のレースウイークエンドの流れは、予選までの不振を決勝のレース展開で挽回するというもの。過去14戦すべてがそうだったと言ってもいいほどだ。TAGホイヤーアワード(レース中にどれだけポジションを上げたかによるランキング)でトップに立っているのが、その証拠でもあろう。

 そしてこのラグナセカでも、そのレースウイークの例に洩れなかった。金曜日のFP1が19番手、土曜日のFP2が26番手と厳しい結果に。一方、3台目のマシンとしてRLLからエントリーした若いオリバー・アスキューはFP1で6番手、FP2で15番手をマークし、予選ではファストシックスに進んで、なんと5番手のグリッドの手に入れている。

 琢磨は予選でグループ12番手、総合で23番手のグリッドと厳しい結果だ。

 同じチーム内で、どうしてこう明暗がはっきりわかれるのなのか?

「45号車はスポット参戦ということもあって、失うモノもないから割り切ったトライができるんですけど、僕らはシーズン通してやってきた方向性の中で考えていくから、急に方向を変えたりはせずに、検証しながら進めていくのでそこに違いがあります。ここまではっきり差が出るのも厳しいですけど‥‥」と琢磨は説明する。

 しかし、シーズン大詰めに来て琢磨はエンジニアと相談し、45号車のセッティングのコピーを敢行した。「いつもは僕のコピーばっかりされていたんですけどね」と苦笑いだ。

厳しい表情を浮かべる佐藤琢磨

 ある意味ではプライドを捨てたセッティングチェンジだったが、琢磨は日曜の朝のウォームアップで3番手のタイムをマーク。アスキューやグラハム・レイホールよりも速く走って見せた。

「最初からこうでないとね(笑)」マシンを降りた琢磨の目に輝きが戻った。このスピードの復活が決勝レースの結果に結びつけられるのか。

 23番手からスタートした琢磨は、1周目にリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)との小競り合いになったものの順位をキープした。だが前方でアレキサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)のコースオフでイエローコーションとなり、チームはこの間に琢磨をピットに呼び入れた。

リナス・ヴィーケイと競る佐藤琢磨

 タイヤをブラックからレッドに変更し燃料を足して隊列に戻った琢磨は、グリーンなると見違えるようなスピードで前のマシンを追う。

 ピットアウト後は25番手だったが、10周を過ぎた頃から前のクルマのピットインが始まると、20周目にはトップのコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)の真後ろまで浮上した。その後ピットアウトしてきたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)に抜かれたものの、3番手をキープして24周目に2度目のピットイン。

レッドタイヤに変更し、ポジションを上げる佐藤琢磨

 18番手に落ちるものの、36周目には10番手に戻した。ピットシークエンスがライバルとは違うとはいえ、十分に上位入賞が期待できる走りをみせる。

 しかし37周目、ラグナセカの鬼門であるコークスクリューで琢磨は最初のターンの内側の縁石に乗りスピン!

 そこに後続のスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)がクラッシュした。琢磨はマシン後部にダメージを負い、ピットで足回りを修復しコースに戻ったが、すでに3周遅れの最後尾に。

 もはや上位進出の望みはなく、さらにダメージを負っていたデフューザーがさらに壊れたため、マシンをピットに向け83周目にマシンを降りた。

「スピンをしてしまったのは自分のミスだし、ディクソンにも申し訳ないことをしてしまったけど、彼はレース後に気にするなと言ってくれました」

「今日のレースはスピードがあってコース上で何台も抜けたし、フィニッシュすれば上位にいけたのは間違いないのに残念です。次は思い出のロングビーチ。元々チームはロングビーチには強いのでシーズン最後のレースを思いっ切り走りたいですね」

 2013年にインディカー初優勝を遂げたロングビーチ。あの長いトンネルを抜けた時のようなレースを、最終戦でもう一度見せて欲しい。

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