東京五輪の陸上男子マラソンで6位入賞し、現役を引退した大迫傑さん(30)が新たな活動をスタートさせた。引退後すぐに小中学生向けのプロジェクト「Sugar Elite Kids」を始動。このほど共同通信のインタビューに応じ、世界で戦う次世代を育成するという、新たな挑戦を始めたことへの思いを聞いた。(共同通信=辻圭太郎)
▽自分を踏み台に
―五輪を最後に引退。心境や生活の変化は。
「レースが終わり一息つく前に新たなことを始めたので、考える余裕がないというか。振り返っても振り返らなくてもそれほど変わらない。今は、やるべきことで忙しくさせていただいている」
―現役時代から、日本が世界と戦うために次世代へつなぐことの大切さを説いてきた。
「自分の代だけではなかなか達成できない。自分を踏み台にして、陸上の後輩だけでなく、子どもたちが世界でもっと上を取れるよう、成長していってほしいという思いが強い」
▽全国10カ所で開催
―8月29日から小中学生向けのイベントを開始した。9月末までに全国10カ所で開催を計画している。
「(コロナ禍で一部が)オンライン開催となり、不安もあったが、子供たちの反応は思ったより良かった。楽しんでできるよう、これまでやってきたメニューを簡略化し、トレーナーの方にも、この年代に必要なトレーニングについて教わっている」
―富山、佐賀、仙台、浜松など、全国各地で開催している。
「これまでは(教室やイベントを)東京近郊でやることが多かったが、ふと考えた時、東京以外の子どもたちは、自分が行ってあげないとどうなるんだろうと。情報やチャンスは平等であるべきで、もれなくみんなに経験を与えてあげたいと考えた。47都道府県だけでなく、全ての市区町村に届けばいいなと思う」
▽挑戦する楽しさを
―各地の自治体と積極的に連携し、意見交換を行っている。
「地域がどういう課題を持っているか知ることができている。子供たちがアスリートと触れ合う機会は少なく、また指導者不足との話もあった。(指導法の提案や紹介は)僕自身が貢献できる部分でもあると思う。どんなことが必要かヒアリングしていきたい」
―小中学生に教える難しさを感じることは。
「実際に子供たちが考えている顔や笑顔を見て、子供たちに頑張って届けていきたいという思いが勝っている。目的が明確なので、楽しみながら課題をもって取り組めている」
―これからの世代に特に伝えたいことは。
「挑戦することの楽しさ、乗り越える達成感は、時に悔しさもありながら人生を豊かにすると思う。挑戦を通じ、成長した時の達成感はすごいもので、自分自身を強くするものだと伝えたい」
▽高校、大学生も対象に計画
―自身は拠点を米国に移し、ケニアで合宿を行うなど挑戦を重ねた。
「結果を出すことはもちろん大事だと思うが、たとえできなくても、挑戦することで得られる学びやスキルがあり、それが大事だと思う。陸上をやめたとしても、スポーツをしていなくても、今の時代を生きていくのに重要なことだと感じている」
―東京五輪は3位と41秒差の6位。世界との差をどう感じたか。
「もう少しだと思ったし、みんながそう感じたと思う。次は自分だとSNSで発信してくれた選手もいた。自分自身、もっとやれるという気持ちはあるが、区切りとして後輩たちに希望を与えられた。3年後のパリに向け、大きな勢いがついたと思うし、それができたのはうれしい」
―現役引退を惜しむ声もある。
「人生の停車場の一つで、ここが終わりではない。人生は長く、まだ最初の30年。これからが僕自身の挑戦だと思う」
―次世代育成に向けた今後の活動計画は。
「Sugar Elite Kidsは来年春頃からまたやりたいと思っている。高校、大学生を対象にもいろいろ計画しており、近い将来に発表できればと。(自宅のある)米国に一時帰るが、指導者の方へのヒアリングはオンラインでもできる。実際に指導者の方々がどんな風に思われているのか聞いていきたいと思っている」
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おおさこ・すぐる 中学で本格的に陸上を始め長野・佐久長聖高、早大で成長、活躍した。1万メートルで2011年ユニバーシアード優勝、13年世界選手権出場。16年リオデジャネイロ五輪は5000メートル、1万メートルに出場。マラソンに転向し18年のシカゴで2時間5分50秒、20年の東京で2時間5分29秒と当時の日本記録を更新。6位だった東京五輪を最後に現役引退。170センチ。30歳。東京都出身。