お願い来ないで……。怪談「残業時間に出会ってしまったもの」

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※本記事では、怪談話をご紹介します。ホラーが苦手な方はお控えください。

僕が以前お付き合いしていた女性が実際に体験した話です。

彼女は一般企業で経理をしていたのですが、その日は忙しく、残業になってしまったそうです。なかなか仕事が片づかなくて、結局会社に残っているのは彼女だけになってしまいました。

実は彼女、その仕事以外にもアルバイトをしていたので、出勤時間に間に合わないかもと焦っていたそうで。そして、なんとか仕事を終わらせて「さぁ、バイトに行こう!」と思った時でした。

――バタンッ。

という音が聞こえたんです。事務所入り口近くの、もう帰っているはずの人のデスクあたりから聞こえたようでした。彼女が「何だろう?」と思いそのデスクを見つめていると、デスクの下からスッ……と手が出てきて、フッ……と消えたのです。

怖がりだった彼女は、青ざめてしまいました。よりにもよって入り口あたりのデスクだったので「帰りたいのに帰れない」と焦ったらしいのですが、バイトの時間に遅れるといけないので、意を決して走って事務所から出ることにしました。

気合いを入れて、「お願い、何も出てこないで!」と願いながら走り始めました。でも、人間って不思議なもので、見たくないと思っていてもその方向を見ちゃうものなんですよね。彼女も、ついつい手が出てきたデスクの下を見てしまいました。

すると、なんとそこには、彼女を見つめる男がいたんです。

彼女は「きゃーー‼」と叫びながらも、必死に逃げたそうです。エレベーターも使わずに非常階段で1階まで降りて、そのまま走ってバイト先に向かいました。

幸いにもバイト先は職場から近い場所にありました。着いたのはいいものの、あまりにも顔が青ざめていたので、バイト先の人から心配され、その日は働かずに帰ることになってしまいました。

家に着いてからも不安だったようで、当時彼氏だった僕に電話してきたんですね。「怖いから来てほしい」って。それだけなら良かったんですけど、「明日職場まで一緒に来て、幽霊がいないか見て!」って言うんですよ。「さすがにそれは怒られるんじゃないか?」ってなだめたんですけど(笑)。

すぐには何だったのか分からなかったのですが、後日その男についての詳細が明らかになったのです。結果から言うと、幽霊ではなく“生きている人間”でした。

彼女の会社に入社したばかりの新人男性で、彼女に好意を持っていたみたいで……。彼女が一人で仕事をしているのを、こっそりデスクに置いたスマホで撮ろうとしたらしいんですよね。

そして、隠し撮りをしようとした時に、スマホが「バタンッ」と倒れたらしく。それがあの「バタンッ」という音の正体でした。そして、その男性もやばいと思ってか、様子を伺いつつスマホを素早く回収した手が、スッと現れて消えたあの手でした。

随分焦っていたんでしょうね。できるだけ見つからないように、小さくデスクの下にまとまって、見つからないように願っていたみたいです……。

その後、会社を交えて話し合いの場が設けられ、男性からの謝罪があり、彼女はその場を収めたと話していました。

幽霊と思ったら生きている人間……。その方が怖いということも、あるのかもしれませんね。

(監修:シークエンスはやとも、文:蜂賀三月)