45歳独身女性「管理職をやめて責任を減らしたい」貯蓄4000万で老後は大丈夫?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、45歳会社員、管理職の女性。仕事の責任や時間の制約が厳しく、一般職への転職を検討しています。現在の貯蓄額は4,000万円。収入が減っても現状の支出のままで老後まで暮らしていけるでしょうか? FPの氏家祥美氏がお答えします。

現在独身の40代で、結婚の予定はありません。

現職はお給料は良いのですが、仕事がきつく、なかなか時間の制約も厳しい状況です。両親が高齢になることから、今後はマメに帰省する必要も考えられます。そのため、時間の余裕や、責任の範囲を軽くしたく管理職から一般職への転職を考えています。

両親は、地方在住で持ち家、ローンは完済しています。転職時に地元に戻ることも一案ですが、仕事があるかどうかわからない(手取年収360万円位を希望しているため)、また、友人が地元には少ないので、二の足を踏んでおり、地元には戻らない前提で生活を考えたいと思っています。

収入が減ることが想定されますので、

1)現状から貯蓄が増えない(定年までは、収入=生活費になるとしたら)

現在の生活レベルを一生変更しない(生活費31万円/月)としたら、現在の貯蓄で老後資金は間に合うか否か

2)もし上記で間に合わない場合、目安として、どれくらいの金額を貯蓄する必要があるか

の2点のシミュレーションをご相談したいと思っています。

実際に高齢になった際に生活費として31万円も必要ないかもしれませんが、ケアハウスへの入居等も(お金の余裕があれば)選択肢として考えるかもしれないので、月額31万円で計算してみようと考えています。

現職では退職金制度がありませんので、退職金は支払われません。転職したとしても、定年までは働こうと思っています。

【相談者プロフィール】

・女性、45歳、会社員、独身

・住居の形態:賃貸(東京都、一人暮らし)

・毎月の世帯の手取り金額:68万円

・ボーナスの有無:なし

・毎月の世帯の支出の目安:30万7,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:12万5,000円

・食費:4万5,000円(ふるさと納税購入分も含)

・水道光熱費:1万3,000円

・教育費:1万円(自己投資。書籍、オンライン講座等)

・保険料:6,000円

・通信費:1万3,000円

(Wi-Fi、格安携帯料金、携帯機種変更や、新しいパソコン購入時の貯金を含む)

・お小遣い:4万5,000円(交際費、帰省時の交通費含)

・その他:5万円(ここから毎月2万円ずつ貯めて、年に数回の旅行費用にしている)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:37万円(原則すべて積立投資の購入に充てています)

・現在の貯金総額(投資分は含まない):2,000万円

・現在の投資総額:2,000万円(すべて投資信託。国内外リート:280万、アクティブファンド:480万、インデックス+債券等のバランスファンド:1,240万)

・現在の負債総額:0円


親孝行のための転職で収入ダウンはいい選択?

氏家:管理職として責任の重い仕事を担っているご相談者さん。毎月の手取り月収は68万円と、同世代の女性と比較したら高給を受け取っているものの、仕事がきつく時間の制約も厳しいため、一般職への転職を考えています。

現在は一人暮らしで、毎月の住居費は12万5,000円かかっています。最近、地方に住む両親が高齢になったことが心配で、時間を作ってマメに帰省したいと考えるようになりました。

両親思いの優しさを持つご相談者さんですが、現在の高収入を手放して、ご自身の老後が成り立たなくなっては心配です。ご両親には配偶者と親思いの娘がいますが、現在独身のご相談者さんは、自分だけが頼りとなるからです。将来を見据えて、慎重に検討しましょう。

貯蓄4000万円では今の暮らしの継続は困難

ご相談者さんは、現在の生活費31万円を今後一生変更しない前提で将来の見通しを立てたいということでした。現在は4,000万円(貯蓄2,000万円、投資2,000万円)を保有していますが、この残高がこれからどう変動するかを考えてみましょう。

転職後の収入は、生活費と同額の31万円と想定しています。「収入=生活費」となるため、45歳で転職した後は65歳で退職するまで貯蓄が一切増えないと考えます。会社には退職金制度がないため退職金で貯蓄が増えることもありません。

65歳以降については、「老齢厚生年金-31万円=毎月の不足額」となります。老齢厚生年金は、現役で働いた期間とその間に納めた厚生年金保険料によって決まります。ねんきんネットにログインすると、これまでの年金加入記録を確認できるだけでなく、これから転職をして収入が減った場合にどの程度、厚生年金額の変化があるのかも試算できます。ぜひ試してみてください。

以前の収入などがわからないので何とも言えませんが、ここでは仮に、老齢厚生年金額が月額15万円、95歳まで生きると仮定して、試算してみたいと思います。

45歳から65歳まで:貯蓄の増減は0円
65歳から95歳まで:(31万円-15万円)×12カ月×30年=5760万円

現在の金融資産は4,000万円(預貯金2,000万円、投資2,000万円)なので、差し引きすると1,760万円が不足することになります。

家賃を見直せば95歳でも黒字にできる

ご相談者さんの暮らしを見る限りほとんど無駄はないものの、1か所だけ気になるのが住居費です。家賃12万5,000円を今後50年間支払うと仮定した場合、家賃だけで7,500万円支払うことになります。これを家賃8万円にできたら、総支払額は4,800万円になり、2,700万円が節約できます。これだけで、老後の不足額が解消できますし、さらに1,000万円近い余裕が生まれます。転職と同時に、家賃の低いところに住み替えを行いましょう。

また、ご実家は親の持ち家ということですから、65歳で仕事を辞めるのを機に実家に引っ越せば家賃負担はなくなります。こうして現役時代の家賃負担を軽くしておけば、将来的に一人暮らしが不安になった時にもケアハウスへの入居など、さまざまなサポートを利用しやすくなるでしょう。

このほかにも、現在ある金融資産4,000万円は、65歳までの20年間ほとんど使わない予定なので、これらの運用益も期待できます。20年間1%平均で運用できれば4,885万円に、2%平均で運用できれば5,965万円になります。

お金のことは何とかなる。本当に辞めたいかじっくり検討を

ここまで見てきた限り、生活費31万円のままだと95歳までの生活は厳しいものの、住居費を見直せば見通しが立つことがわかりました。年金が15万円よりも多い場合や、資産運用の効果を考慮すれば、もう少し余裕が見込めるでしょう。

今回のご相談は、「地方で暮らす高齢の両親が心配になった」というのが大きな理由でしたが、その理由で収入を半分以下にする転職をしていいのかは悩むところです。仕事のやりがいを求めて以前からやりたかったことに転職するのであれば、一時的に収入が減少してもそこでまた頑張っていけばいいでしょう。また、親の介護が差し迫っていて同居が必要などの理由であればまたそれも仕方ないかもしれません。

ところが、一般職に転職しても、親と離れて一人暮らしをすることや正社員として決まった時間働くことには変わりません。管理職経験のある人が管理職を降りて転職しても、どこまで仕事が楽になるかは未知数ですし、むしろやりがいがダウンしてしまう可能性もあります。その決断が年収半減に見合うでしょうか。

一人で悩まずに人のサポートを得ることも考えて

おそらく、ご相談者さんは今とても疲れているのでしょう。疲れているときに重大な決断をするのはお勧めしません。転職を切り出す前に、まずは休息をゆっくり取りましょう。大事な管理職のご相談者さんに急に辞められるくらいなら、休まれたほうが会社としてのダメージは少ないので、気にすることはありません。

心と体に余白が生まれたら、これからについて考えましょう。離れて暮らす親のことを職場で上司や仲間に相談したことはありますか。意外と同様の悩みを抱えている人がいるかもしれませんし、何かしら対応を考えてくれるかもしれません。

例えば、どちらかの親の介護や認知症が気になりだしたという場合、「介護休業」を取得できます。休暇を取って両親に会いに行き、ご両親の様子を地域包括支援センターなどで相談すれば、公的介護保険の申請もできますし、ご両親のために使えるサポート制度を紹介してもらえるでしょう。家事支援や介護などのサービス利用にお金が必要なら、親に経済的支援をすることも今の仕事を続けていればできるはずです。

45歳は、まだまだこれから。転職するかどうかは親を言い訳にするのではなく、自分ごととして考えましょう。自分の人生を生きるためにも、ひとりで抱えず、だれかに相談することから始めてみませんか。

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